息子が世話になって支援を決意
現在、「止まり木」のスタッフは男性7人、女性が6人。それぞれに、この活動に参加した思いや理由がある。
特に熱い女性スタッフが2人おり、大塩さんは自分を含めて“3婆”と称している。その1人である大久保さん(73)は、入所者みんなの母親のような存在だ。自分の息子が「止まり木」で世話になったことがあり、無事に自立した後、「スタッフにならないか」と誘われた。
当時、大久保さんの息子はギャンブル依存症だった。だが、本人が病気だと認めず、症状は悪化するばかり。このままではダメだと悩んだ末に息子を家から出すと、路頭に迷い無銭飲食で捕まった。執行猶予がついたが、行く場所がなく「止まり木」に。弁護士やスタッフと話すうちに、「自分は病気なんや」と気がついたそうだ。
「うちの息子もここでやり直しの人生が始まったんよ。ここに来たということは、すごくラッキーなことなんやで」
大久保さんはそんなふうに、入所者に自分の息子の話をしている。
「私が支援者としてここにおる意味は、それしかないと思っているので、息子の話をしたほうがいいと思ったときは、ありのままを話しています。
入所者の話を聞いていると、親に対する不信感や屈折した思いを大体の人が持っていると感じるんですよ。
だから、“あなたは親に見捨てられたと思っているかもしれないけど、親は子どものことを思っている、やり直しの人生を歩んでいると言うてくれる日を待っているよ”って言います」
だが、いくら大久保さんが親の思いを伝えても、最初は聞く耳を持たない人が多い。ネット詐欺で服役した30代の男性もそうだ。「自分の親はきょうだいばかりかわいがる、親とは縁が切れている」というのが口癖だった。
男性は「止まり木」を出た後、再犯をしてしまう。裁判の前に大塩さんは男性の母親と電話で話した。すると母親は「自分も息子に愛情をかけていなかった」と認めて、泣きながらこう言った。
「今度出所したら、息子を抱きしめたい」
大塩さんが情状証人として裁判に出廷して母親の言葉を伝えると、その男性は「ほんまか?」という顔をしたそうだ。
ある日、刑務所にいる男性から手紙が届いた。
《親は根っ子。根っ子を大事にすることで幹である自分も元気になるんよ。そう言ってくれた大久保さんの言葉が、やっと理解できるようになりました》
大久保さんは涙が出てきたとうれしそうに話す。
「ちょっとでも役に立って、よかったなーと思うし、感激しました。短い間でも、関わっている間は自分の子と一緒やからね」
出所したら男性はまた「止まり木」に来ることが決まっているので、大久保さんは楽しみに待っている。