「二次被害」を招く心ないひと言
世間にはびこる大きな誤解が、さらに被害者を傷つける。
例えば「強姦神話」。これは性暴力を受けた原因は被害者の側にもあると責め立てる傾向のこと。「嫌なら抵抗できたはずだ」「挑発的な服を着ていたせいだ」「性被害に遭うのは被害者にも非がある」というような偏見が世の中には蔓延。
まるで犯罪者に肩入れするようななんとも無情なこうした偏見は、さらなる「二次被害」を招く。性被害者は自分を責め、被害に遭ったことをさらに明かしづらくなる。もし被害者が子どもなら、この刃はより鋭く胸の奥に突き刺さる。
「変質者に声をかけられたのは自分のせいだ」「あのとき犯人に嫌だと言えていたら、逃げられたかもしれない」と被害に遭った自分のほうを責めてしまう。自分より何倍も力のある大人にその場を支配され、動くことはおろか、声を出すことすらもできなくなるのが当然で、被害者にはたった1ミリも非がないのは明らかなのに……。
警視庁のまとめによると、近年ではSNSをきっかけに性被害に遭う小学性が急増。性犯罪リスクは昔とは比べものにならないほど。
「身近な子どもの異変に気づいたら、あれこれ事情を聞くようなことはせず、早めに専門家や専門機関の力を借りてケアを。周りの人の初期の対応が大切なのです」
身近に潜む性被害。この現実に社会全体でしっかり向き合い、トラウマへの理解を深めることこそ光をともす道筋なのだ。
【子どもが性被害……大人の心得】
・二次被害を招く言葉を言わない
「そんな時間まで何してたんだ」「どうしてついていったの?」「だから言っただろう」というような子どもを責めるような発言は絶対にNG!
・「あなたは悪くない」と伝える
性被害を打ち明けるのは、とても勇気のいること。落ち着いて子どもの話を受け止め、心に寄り添うことが大切。「勇気を出して打ち明けてくれてありがとう」との言葉を添えて。
・根掘り葉掘り聞きすぎない
専門家ではない人が、心配のあまり何度も聞きすぎると、子どもの記憶が混乱してしまい、さらに傷口を広げてしまう可能性がある。
・できるかぎり証拠を残す
接触のある被害直後の場合は、お風呂やシャワーは厳禁。そのままの状態で警察に行き、加害者の体液や服の繊維などの証拠を採取してもらう。
・早めに専門家へ
性的暴行などのケースは72時間以内であれば、妊娠を防ぐための「緊急避妊薬」が使用できるので早めに産婦人科へ。さらに、深い傷を負った心のケアのためにも専門家に相談を。
お話を伺ったのは
長江美代子さん
公認心理師。日本福祉大学教授で精神看護学・国際看護学を担当。2016年、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院との協働により「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」の立ち上げ、運営に携わっている。