主婦になり“閉じてしまう”ケース
「不登校やひきこもりとは縁のなかった人が、主婦になって初めてひきこもりになることもある」と林さんは言う。原因はさまざまだが、子どもがいないことが引き金になるケースもある。例えば30代Bさんの例。
明るく気さくで友人も多く、休日は遊び回っていたというBさんがひきこもり主婦になった原因は不妊治療。治療に専念するため、やりがいを感じていた仕事を退職。しばらくは友人たちとランチや旅行を楽しんでいたが、周りの子育て話や仕事の話題がつらくなり、だんだんと連絡を取らなくなった。現在では週に1度の買い物でしか外に出ないまでになってしまったのだ。
ひきこもりを増加させた原因はコロナ禍。巣ごもりを強いられた2年ほど前から現在まで、緊急事態宣言が明けてからも自宅にこもりきり、という主婦が後を絶たない。
「夫が在宅勤務になって、常に顔を合わせるといった家庭も多い。妻の家事量が増え、負担が大きくなったことで精神的にダメージを受け、ひきこもる、という主婦も増えています」
会社やパート先でのパワハラやセクハラ、マタハラによるトラウマからひきこもりになるケースも。そんな彼女たちに共通するのは「生きづらさ」だという。
ひきこもりUX会議が2019年に行った調査によると、ひきこもる女性たちの99%が「生きづらさを感じている、感じていた」と回答。そのように感じる原因のひとつは「自己否定感」。
「ひきこもりから抜け出せない女性たちは、『こんなダメな人間は世界で私だけ』『社会の役に立てない私は存在していていいわけがない』といった自己否定に苦しんでいます。特に主婦だと夫や子どもに対して『いい妻でいられない』『こんなダメな母親でごめん』という気持ちが加わってしまう」
誰かに相談して、少しでも心を軽くできないものだろうか? 林さんは首を振る。
「独身の友人から『結婚したんだからいいじゃない、食べるのに困らないし、主婦の肩書もあるでしょ』と言われたら何も言えなくなる─というケースも」
精神的に参っているときに「女は主婦になればいいんだからいいよね」と言われてしまうと、助けてほしいと声を上げづらくなってしまう。ひきこもり主婦は自宅の一室で孤独な戦いを強いられている。