大名跡を継ぐ域に達していない

「'10年に海老蔵さんが暴行事件に巻き込まれ、その被害者として急きょ入院したことがありました。当時、彼は京都での舞台に出演予定だったため、代役を仁左衛門さんが務めたのです。歌舞伎の品格を落とし、尻拭いまでさせられたことを今でも許していないといいます。玉三郎さんも海老蔵さんの素行の悪さにあきれていて“息子さんのほうが期待できる”と冗談めかしながら発言したこともあります」(同・梨園関係者)

 '20年5月に行う予定だった團十郎襲名披露公演でも、こんな一悶着が。

演者と演目が決まったのは本番の3か月前でしたが、これは、大御所たちが出演を渋るというボイコットのようなことが起きて、彼らを説得するのに時間がかかったためなんです」(同・梨園関係者)

 これまで“自由すぎる”振る舞いで数々のスキャンダルを起こしてきた海老蔵。今年に入ってからも義姉・小林麻耶からの暴露攻撃や女性との多重交際報道など、ネガティブな話題が絶えないため、周囲から敬遠されているのだろうか。

「素行もそうですが、なにより海老蔵さんは古典歌舞伎に対する意識が低く、大名跡を継ぐ域に達していないと思われているんですよ。そのため、大御所たちは“時期尚早”と彼の襲名にあまり協力的でないんです」(同・梨園関係者)

 歌舞伎評論家の中村達史氏も海老蔵の技量不足に苦言を呈する。

歌舞伎の演技には脈々と受け継がれる文法や型があり、そういったものを身につけなければいい古典は上演できません。しかし、海老蔵さんはそういった点を疎かにしていたため、彼と同世代の松本幸四郎さんや尾上菊之助さんと比較すると、古典に対する理解が少々下がるのは否定できません」

 海老蔵は5月に、お家芸である古典歌舞伎『暫』を演じているが……。

あれは豪快な演技が求められ“荒事”といわれるジャンルです。型を正確になぞることよりも多少粗削りでも勢いや力強さが魅力となる“フリースタイル”のようなものです。それは海老蔵さんの大きな武器として磨きつつ、團十郎として自由な演技だけでなく伝統的な芸も身につける必要があると思います」(中村氏)

 暗雲が漂い出した海老蔵の晴れ舞台。挽回のチャンスはあるのだろうか。

「襲名直前の舞台はこれまでの総決算であり、襲名後の活動に向けての意思表示のような意味合いを持ちます。『七月大歌舞伎』もですが、“海老蔵”として活動する間の舞台でうまく演じきれれば、先輩たちの心証も変わるかもしれません」(梨園関係者)

 一大イベントが“人気役者不在”の寂しい事態に陥ることだけは避けてほしい。

中村達史 歌舞伎評論家。歌舞伎学会に所属。歌舞伎やその他のジャンル含め、年間に50〜80公演ほどを観劇。主な著作に『若手歌舞伎』(新読書社)