それはさまざまなタイプの子がいきなりアイドルになってしまうシステムでもあり、ときにスキャンダルも生む。未成年喫煙が報じられ、やめさせられたメンバーもいた。ただ、それもドキュメンタリーとしてのスリルをもたらしていたといえる。
筆者がインタビューしたなかにも、成人だったとはいえ、普通のアイドルなら隠す喫煙の話やヤンキー的なファンとケンカしたことを得意げに話す子がいた。そういうやんちゃな子がタレント教育を受けないままオリコン1位になるほど売れてしまうあたりも、おニャン子ならではだった。
テレビ視聴率が落ちると同時に店じまい
ではなぜ、おニャン子はヒット曲を量産できたのか。それは、フツーの子たちがフツーの歌唱力でフツーの恋愛を歌うという、歌のうまい聖子や明菜では絶対にできない、究極のアイドルらしさがウケたのだろう。
しかも、おニャン子の歌はなんでもありだった。企画ものとしてスタートして、事務所やレコード会社の命運を担っているわけでもない気楽さとノリのよさで、使えるものはすべて使うスタンスだった。
メンバー(中島美春)の卒業が決まれば『じゃあね』、2月にソロデビューするメンバー(国生さゆり)には『バレンタイン・キッス』、デビュー曲で味をしめたエッチ路線も引き継がれた。渡辺美奈代のような王道的アイドルポップスもあれば、アイドル演歌(城之内早苗)にコミックソング(ニャンギラス)も、という具合に、その自由自在ぶりもエンタメとしての勢いにつながったといえる。
それはさながら、アイドルの歌の見本市。1970年代初めから10数年にわたって開発されてきた、さまざまなスタイルをやり尽くすものだった。大量消費の時代にふさわしく、アイドルの歌の大量消費をやってのけた感じで、その結果、ファンはお腹いっぱいになった。1980年代末からのアイドル冬の時代は、おニャン子ブームもその一因だったりする。
また、おニャン子は番組と一心同体だったから、その視聴率が落ちると店じまいになった。そこからはもう、フツーっぽさだけでは生き残れない。
例えば、前出の新田はグループ解散後、作詞家を目指したりしたが、成功はしなかった。しかし、その「歌唱力」は長く語り継がれることに。2013年度前期のNHK朝ドラ『あまちゃん』では、喫茶店のテレビで『セーラー服を脱がさないで』が流れ、松尾スズキが演じるマスターが新田の歌唱力のなさをネタにした。
これを見ていた新田は、
「脚本家の(宮藤)官九郎さん。お会いしたことはありませんが……、27年たっても官九郎さんの中での歌が下手なおニャン子は私なんですね、とほほ」
と、ブログでぼやいたが─。朝ドラのネタになるほどだから、これもまたフツーの子集団・おニャン子ならではの「伝説」である。