医療格差をなくすための初志貫徹した強い思い

 動画は再生されなくては意味がない。肌が白くて赤い口紅の女なら、男性が“エロの記号”として捉えるだろう。そうなれば、結果として多くの女性にも情報が届くはずだ。それまでメイクには無頓着だった富永さんだが、百貨店に出向きメイク道具をそろえ、扇情的な文言とともに動画を投稿した。作戦は功を奏した。

 YouTubeに続いて開設したFacebookコミュニティ「富永喜代の秘密の部屋」はメンバーもいまや9800人('22年6月現在)。男性の参加者も多いが、けっしてエッチな話題が目的ではないという。

 いずれも「女性の気持ちを知りたい」「加齢に伴う身体の変化を知りたい」という切実な思いを抱え、富永さんの医学的論拠に基づいた動画や投稿を求めているのだ。

 医師としての実務に経営、作家業にYouTube配信……ともすると傍目にはなんの脈絡もないように見える活動も、「医療格差をなくしたい」「なかったことにされている痛みを治したい」という思いは、初志貫徹している。

『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)の書籍制作をオファーした編集者、佐々木健太朗さんはこう語る。

「富永先生のアイデアの豊富さ、判断力の速さ、仕事を進めるスピード感には度々驚かされます。少し前には、YouTube動画に中国語のテロップをつけるなど、その“攻めの姿勢”には見習うべきものが多いですね」

 動画以外にも遠方で来院できない人のために富永さんの豊富なアイデアは、いかんなく発揮される。

 
過去には、手指の痛みに悩む人が自宅で簡単にマッサージができる「ゆび関節ローラー」や、加齢によるデリケートゾーンのトラブルに悩む女性のための化粧品『Dr. ESTRA』を開発した。

 また最近では、フィットネストレーナーがいない人口過疎地域でも体力増強ができるAI搭載のVRフィットネスマシンの開発も手がけた。

同クリニック3階にあるジムには最新のマシントレーニングのほかVRフィットネスもそろう 写真/北村史成
同クリニック3階にあるジムには最新のマシントレーニングのほかVRフィットネスもそろう 写真/北村史成

 さらに'20年8月、貧困やDV、妊娠・出産のトラブルなどに苦しむ女性の支援のために「日本女性財団」(対馬ルリ子代表理事)が設立され、全国各地の15人の女性医師が名を連ねている。医師は「フェムシップドクター」と呼ばれ、性の被害相談から関連機関との連携まで幅広い支援を行い、そこには富永さんの名前もある。

女性医師医師の家系の出身や恵まれた環境で育った方も多い。でもへき地出身の私は、貧困やDVをこの目で見てきた。そういう医師が1人ぐらいいてもよいのでは、と考えて、自ら手を上げました」

富永さんの出身地。ドラマのロケ地になったことも(富永さん提供)
富永さんの出身地。ドラマのロケ地になったことも(富永さん提供)

 たとえ“エッチな女医”と見られたとしても、なかったことにされてきた人の痛みへの社会的理解が進むなら─今日も富永さんは、赤い口紅をつけ、カメラに向かって笑顔で語りかける。

〈取材・文/アケミン〉

 あけみん ●2003年からAVメーカー2社の広報を経て、'09年にフリーランスに。週刊誌やウェブ、書籍などで執筆。著書に『うちの娘はAV女優です』(幻冬舎)ほか編集協力に『ガチ速“脂”ダイエット』シリーズなど