“男性の性被害は対応がわからない”と言われて
インターネットが普及していない時代。心療内科を中心に自分で調べて、診察をしてもらった。
「約30か所に行きました。しかし、どこもしっくりくるところはありませんでした。“男性の性被害は(対応が)わからない”と言われて、断られたこともあります。“気にしないことだ”と言う医療者もいました。
睡眠や食事、記憶の混乱など、被害の影響について聞かれて、淡々と答えたせいかもしれません。その後、人前で被害を語る機会を積極的に作っていきましたが、人に話すことで少しずつ気持ちの整理ができました。
本来なら、被害にあっている中1のときに助けてくれる大人がいればよかった。でも、当時は誰かに相談することなど思いつかなかったんです」
こうした経験を踏まえて、安田さんは勉強会で積み重ねたデータも含め、性別や性的志向を問わない性被害の実態状況について厚労省への申し入れを検討中だ。
厚労省調査と類似の調査をした団体もある。自殺を考えている人に対するインターネットでの相談活動をしているNPO法人『OVA』だ。
性暴力を含むDV被害について、配偶者や親密なパートナーから被害を受けた20歳以上の人を対象に調査した。21年12月、「性を問わないDV被害に関する実態調査と新しい相談体制の検討」をまとめた。
調査の動機について、伊藤次郎代表はこう話す。
「(新型コロナウィルスの感染拡大による)緊急事態宣言が出される直前のころ、家庭内の暴力被害が目立つようになりました。被害者の多くは女性です。
しかし、激増とまではいいませんが、男性の被害相談も増えたんです。かなり重篤な相談もありました。男性被害者はなかなか注目されません。被害者の性別を問わないで支援する重要性が、相談の現場から出てきました」