警察が事件化しない理由
「もしアレを警察が見つけたら、さすがに他殺として報道されていると思うんです。まだ報道がされていないっていうことは、まだそのままあるんじゃないかなぁ」
Kさんと僕は、まだ少し雪が残る道を歩きながら、その問題の場所に進んだ。
「この先です。あ……、もうなくなっていますね。あそこにあったんですよ……」
Kさんは指をさす。ご遺体があったという場所は、たしかに旧道から見上げる場所にあり、道沿いに来たら、絶対にわかる。雪が解けて樹海に来た誰かが見つけて通報したのだろう。Kさんはとても残念そうだった。
「おそらく……なのですが、
誰かが“彼”を連れてきたんです。
生きた状態か、死んだ状態かはわからないけど、どのみち樹海の奥までは連れていけなかったんでしょうね」
樹海は1人でも歩くのが大変な場所だ。
例えば抵抗する男性を連れて歩くことも難しいし、死体を背負って歩くとしてもしんどい。だから、旧道沿いに歩いてきて、森に入ってすぐの場所で吊るした……。だから雪が解けて、死体は発見され、警察に通報された。
ただ、そうなると1つ疑問が残る。
警察があの死体を見つけたとして、なぜ事件化していないのだろうか?
「たぶん警察は“自殺”として処理したんでしょう。もしあれが他殺となったら報道せざるをえないですし。そうなると、青木ヶ原樹海は今後、“他殺スポット”としても注目されかねない。
だったら、自殺として穏便に処理しておこうっていう話なんじゃないかな。一応は首吊りの形になっていたわけだし……」
Kさんから写真が送られてきたとき、正直、
「なんてずさんな犯行だろう。これでは逮捕してくださいと言わんばかりだ」
と思った。だが、それは違った。そこが“青木ヶ原樹海”であったことで、誰かが逃げ切れてしまったのだ。その誰かは現在も、日本のどこかで普通に暮らしているのだろう。
そうやって葬り去られた殺人事件は、世の中には山ほどあるはずだ。“自殺の9割は他殺である”─とある元監察医の言葉を思い出す。
今日もどこかで……と思うと、少し背筋が寒くなった。
教えてらむさん!樹海にまつわるQ&A
Q「一般の人でも行ける場所ですか?」
「樹海は辺境の地と思われがちですが、実は東京から車で2時間程度。公共機関なら河口湖駅からバスを利用して、富岳風穴または鳴沢氷穴のバス停を目指して。周辺含め観光スポットですが、観光客に見えないような服装で行くと自殺対策の監視員さんに呼び止められますのでご注意を!」
Q「樹海ではコンパスがきかないの?」
「それは都市伝説で、ちゃんと使えます。僕は迷いそうになった経験があるので、米軍仕様のコンパスを2つ持っていきます。おすすめは地図をダウンロードできる、もしくは地図が内蔵されたGPSを使えるアプリ。そういうマップアプリを入れた携帯を持っていくと便利ですよ!」
ルポライター、イラストレーター、漫画家。愛知県名古屋市出身。貧困やホームレス、新宗教など社会的マイノリティーをテーマにしたルポルタージュが多い。近著に『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)など。