様子を間近で見ている伯父に聞くと、

「母親は何も変わっていない。こんなことで信念が変わるような人と違います。一般的な見方をすれば、徹也(容疑者)は旧統一教会の被害者にはあたるかもしれません。しかし、母親自身は被害者とは思っていませんから」

 と話す。伯父からすれば、容疑者の母親は、亡くなった弟の妻で血縁関係にない。それでも事件後、あえて自宅に呼び寄せ保護するように同居している理由を尋ねると、

「呼び寄せたわけではないし、保護したつもりもない。検察が母親を事情聴取する機会を確保しただけです。まあ、広い意味で言えば保護にあたるのかもしれませんけど」

 と淡々と答えるのだった。

 首相経験者が銃撃され死亡したのは戦後初めて。大それた事件を起こした息子を心配したり、気にかけることはないのか。

息子を心配することなんかない

「心配することなんかありませんよ、そんなもん。息子を気にかけることもない。全く変わっていないと言うてますやん」(前出・伯父)

 信仰に生きる母親とそれを憎む息子との断絶は今なお続いているようだ。おそらく犯罪史に残るであろう事件を引き起こしても、親子の溝が埋まる気配はない。

 一方、現場の大和西大寺駅前を訪ねると、平静を取り戻したように見えた。

 長蛇の列をつくった献花台は7月19日に撤収され、今は周辺の随所に《お花やお供えなどは、故人へのお気持ちと共にお持ち帰りください》とはり紙があった。

 現場近くに勤務する男性によると、それにもかかわらず花を置いていく人が後を絶たないが、奈良市がこまめに回収しているため散らかることはないという。

「献花台がなくなってからも定期的に回収に行っています。朝、夕2回行く日もあり、行かない日はないくらいです。8月3日時点で回収した花は76束、ほかに手紙や缶コーヒー、ジュース、お酒など。花は施設で堆肥化しますが、飲み物は故人に捧げる意味合いか、飲み口が開けられていて処分するしかありません。道路管理上、散らかることのないようにしています」(同市の担当者)

 現場に手を合わせていた県内の女性は、

「安倍さんはさぞ無念だったでしょう。なにより昭恵夫人がかわいそう。首相を辞めて、これから夫婦の時間を楽しむつもりだったでしょうに」

 と夫人の心中を慮った。

 多くの国民がショックを受けた令和の大事件。全容解明にはまだ時間がかかりそうだが、山上容疑者に酌むべき家庭事情があったにせよ許される犯行ではない。

 母親が、取り返しのつかない過ちを犯した息子を見つめ直す日は来るのだろうか。