妻に離婚を意識させた夫の本音

 志穂さんはこのとき初めて「夫は私を守ってくれない」とわかったという。だが娘のためにも、夫に守ってもらわなければ家庭崩壊になりかねない─。

「そこで夫に、娘のために女性と別れてくれとお願いしました。もし慰謝料が必要なら、追い払うために払ってほしいと。ところが夫は“慰謝料をもらいたいのはこっちだ。頭がおかしい相手に払う必要はない”と強固に拒否したんです。そこで私から女性に電話をして、夫の言葉をそのまま伝えたんです

 電話の向こうの女が一瞬黙ってしまった。そして「本当にそう言ったんですか」とすすり泣きながら、志穂さんに次のように訴えたという。

彼は“僕の結婚は別れる理由がなかった。だから仕方なく結婚した”と言っていました。そして“君にはときめきを感じているからまた抱きたい”と何度も私の部屋にやってきてたんです。頭がおかしいだなんてひどい

 女性のすすり泣きを聞きながら、志穂さんは「別れる理由がなかった」と夫が言ったのは本当だろうとぼんやりと思った。そして夫の真意を確かめないまま結婚話を進めたことは、間違っていたのだろうかと初めて自分の結婚を疑った。

 電話を切った後、「もう別れよう」という感情がふっと湧いてきた。だが今は子どもがいる。子どもの養育費を払ってくれさえすれば、離婚できるのかもしれない。

 自分の心が冷めていくのを感じながら志穂さんは、夫は私にも本気ではなかったんだ、とこのとき初めて知ったのだった。

取材・文/夏目かをる

短期連載(2)『女が離婚を決めた瞬間ーー』へ続く。