老いた親とその子どもを悩ます「実家の片付け」問題。意見の衝突から親子ゲンカを招いてしまうことも……。何をどうすれば、スムーズに進めることができるのか。介護作家兼ブロガーの工藤広伸さんは、母親の家の片づけを8年間、継続中。一方で、家出した父親の独居じまいは半年で終えたそうでーー。
きっかけは“食器棚”だった
東京を拠点に遠距離介護をしながら、盛岡に住む母親の家の片づけと、別居を選んだ父親の家じまいを行った介護作家兼ブロガーの工藤広伸さん。母親の家の片づけは2014年2月にスタート。
「きっかけは食器棚です。食器が詰まりすぎていて、手足の不自由な母にはガラス戸を開閉しづらい。1人暮らしなのに家族5人で暮らしていたころの食器をサイズダウンできておらず、見かねて整理を始めたのが第一歩でした」
整理は容易ではなかった。認知症を患う母親とのバトルが待っていたからだ。
「母は『誰か来るかもしれないから、取っておいて』『これはいずれ使うものだから』と強く主張する。でも実際には必要ない食器ばかり。私がゴミとしてまとめても、母は食器棚に戻してしまう。再びゴミとして整理するも、また食器棚へ……。その繰り返しでした」
最終的には母親がデイサービスに通う留守中に捨てる作戦を決行。認知症の進行とともに消えた食器のことも忘れるようになり、親子バトルは幕を閉じた。
「だからといって、何でもかんでも捨てたわけではありません。思い出の品を手にすることは母の認知症のリハビリにつながるため、愛用のお皿などは取っておきました。また、親家片は断捨離とは違い、“二度と帰らない親との日々の反芻”であり、処分してすっきりすることが目的ではないのです」
大量の食器は母の料理好きの名残
片づけ開始から8年。食器から衣類などへ範囲を広げているとはいえ、終了したのは全体の3割程度だ。
「短期間で効率よくやるよりも、気長に取り組むほうがいいと考えました。片づけを通じて母親の歴史をたどり、理解を深めるのもひとつの過程だからです。実際、母の20代のころの写真が出てきて、思いもよらなかった一面を知ることができています」
ただ、片づけの手順をミスしたと振り返る。
「食器が多かったのは母の料理好きも関係し、強いこだわりを持っていたのでしょう。その食器から整理したので言い争いを生んでしまった。母にとって興味関心の低い場所から取りかかれば、バトルは最低限ですんでいたのかもしれません」