専門的なプロモーターへの期待
改革は、やりたいことではなく、やらなければいけないこと──。興毅は、「やりたいじゃなくて、決めたらやらないといけない。やったらやらないといけない」と、自らに言い聞かせるように、語る。
冒頭で触れた「3150FIGHT vol.3」は、世界戦が行われないにもかかわらず32社という規格外の数のスポンサーを集め、豊富な資金力を武器に、ボクシング興行の常識を覆す大会だった。
ボクシングの興行として前例がないだけにハレーションも起きた。だが、「ボクシングを好きになるいろんな入り口があっていい。1つだけって誰が決めたんですか?」と父親譲りの正論で微動だにしない。
通常より倍のファイトマネー、巨大なLEDビジョンと花道、特殊効果による華々しい演出、ハーフタイムショー、AbemaTVでの放送と「Abemaスペシャルマッチ」の開催──。
負けはしたものの、大会に出場した経験の浅い若手選手は、大勢の記者を前に、「メリットしかない。Abemaさんで放送しているから、負けてもみんなに存在を知ってもらえる」と興奮ぎみに話していた。
「亀田興毅氏が欧米に多い専門的なプロモーターになれるのではないかという期待がある」
こう評するのは、『ボクシング・マガジン』元編集長で、現『ボクシング・ビート』編集部の前田衷(まこと)さんだ。
「ジム制度を採用する日本のプロボクシング界では、ライセンスは分かれていても、事実上ジムがプロモーターとマネージャーを兼務している状態です。
それゆえ、自分のジムの選手を勝たせるためのマッチメークが横行し、極端に弱い選手を外国から連れてきて、心ないファンを失望させてきた。その点、欧米は独立したプロモーターがいて、専門職として仕事をしている」
『3150FIGHT』では、どのジムに所属する選手でも出場できるプラットフォーム構想を打ち出している。魅力的なマッチメークを行うため、外国から強豪選手も誘致した。
一方、既存の構造は、小中規模のジムで有望選手が現れると、大手ジムに移籍金とともに移籍する。豊富な選手層を武器に、大手ジムは世界戦を含めた大きな大会を打つ、いわば中央集権型だ。前田さんが続ける。
「プラットフォーム構想に似たやり方を目指したものの、『自分で選手を育てないで、よその選手を使って金儲(もう)けをしている』などと業界関係者にやっかまれて続けられなくなった例もある。
デメリットがあるとすればまさにこのあたりだが、今の亀田プロモーターには、メディア(Abema TV)のバックアップがあるのは有利といえる」
大手ジムから弱小ジムまで、興毅が仕掛ける興行では門戸を開く。しかも、破格のファイトマネーを約束している。ファイトマネーは、ジムの大きな収益のひとつだ。
「次の興行で組まれる日本タイトルマッチ。その王者に450万円の試合報酬を支払うと発表している。これが本当なら、これこそが『改革』である」(前田さん)