タイムリープの能力は不思議のままに
一方、10月19日の「残り5話」発表の時点では、タケミチの発言にも疑問の声が上がっていた。
タケミチに発現したタイムリープの能力は「現代から12年前のちょうど同じ日に戻る」というもの。はじめはタケミチ自身の死亡をきっかけに能力が発動し、ナオトを救うことに成功。その後は“姉を救うため、過去を変えたい”と強く願うナオトとの握手を、発動のためのスイッチのような“トリガー”として2つの時代を往来していた。
しかし、その性質上、12年前より過去に死亡してしまった人物は、それ以上時間を遡ることが不可能なため、救うことはできない。ところが、タケミチは第152話で、過去の世界で死亡してしまった登場人物たちも救うことを宣言。「タイムリープ自体ありえない事だし、不可能はない」と言い切ってみせた。
多くの読者がこの言葉に希望を見出す中、物語の終盤に奇跡が起きる。過去の世界で、東卍のトップに立つ“無敵のマイキー”を深い闇から救うべく彼との最終決戦に挑んだタケミチ。戦いの中、マイキーに日本刀で刺され、そのまま命を落とすかに見えたが、死の直前、なんとそこからさらに12年前へのタイムリープに成功。目を覚ますと、マイキーと2人で小学生時代に戻っていた。
その後の結果として、タケミチとマイキーは数々の因縁によって歯車が狂ってしまった登場人物たちの人生をすべて救いながら生きていくことを叶える。最終回ではみんなが笑顔でタケミチとヒナの結婚式に参列する、というこのうえないハッピーエンドを迎えた。
不可能に見えたタケミチの「全員救う宣言」は、伏線として見事に回収されたのだった。
しかしながら、この仕掛けには疑問も残る。小学生時代にまで遡るタイムリープの“仕組み”が説明されていないどころか、タケミチとマイキー自身も「何が起こったのかわからないけど、とりあえずよかった」というような状態で終幕に向かってしまう点だ。
先ほども触れたが、タケミチがマイキーとの最終決戦に向かったのは、マイキーを彼自身が抱える“黒い衝動”という破壊衝動のような闇から救うためだった。
終盤で、そもそもタケミチのタイムリープ能力は、マイキーの兄・真一郎から譲り受けたものだということが明かされる。真一郎はもともと、とある事故によって植物状態に陥ってしまったマイキーを救うため、タイムリープ能力を手に入れるべく、当時能力を保持していたホームレスを殺害する。その後、見事マイキーを救うことに成功した真一郎だったが、実はホームレス殺害の際に“呪い”を受けていた。能力によって救われたマイキーにこの呪いが移り、それが“黒い衝動”という周囲にも影響を及ぼす“業”となって彼の中に存在することになったのだ。
すべてを壊してしまう“黒い衝動”から仲間を守るため、1人タケミチたちのもとを離れていったマイキー。しかし、そんなマイキーを救うため戻ってきたタケミチ。日本刀で刺されながらもマイキーに歩み寄り、マイキーもその姿に涙を流す。前述の“奇跡のタイムリープ”が起きたのは、2人が手を繋ぎマイキーの涙がその手に落ちた瞬間だった。
なんとも美しい展開なのだが、なぜそのような“奇跡”が起こったのか、文字どおり“奇跡”としか表現できない流れのまま完結してしまった。
能力が人の手を渡ってきたということは明かされたが、その起源は解明されず。ほかにも、タケミチは終盤で“未来視”という少し先の未来が見える能力も手にしており、こちらの発現経緯も不明なまま。不思議な能力は、不思議のままに……。