夫の“潜伏先”には赤ん坊を抱えた女性
探偵が近隣の県をくまなく捜すと車種が珍しかったため、すぐに夫の車を発見。待ち伏せて追跡したところ、夫はスーパーの駐車場で警備員のバイトをしていた。そして勤務が終わると車で移動し、古いマンションの一室へ。探偵がさらに監視を続けると、夫はなんと赤ん坊を抱えた30代前半の女性と暮らしていたのだ。そのとき探偵は、子どものいる女性と同居していると思ったという。
「依頼者の麻沙美さんに一部始終を報告しました。すると“乗り込む”と飛び出しそうになったんです。危険だからという理由で止めたんですが、振り切って行こうとしたので、同行することにしました」
妻が愛人と暮らしている家に乗り込むとどうなるか。リスクが高まると探偵は危惧した。そこではおそらく男女の修羅場が待ち構えているだろう。暴力沙汰によってケガをする、させるなどの傷害罪の被害者、あるいは加害者となるリスクが高まるだけでなく、暴れて物を壊すなど器物損壊罪で逮捕されるかもしれない。
探偵には「警護」という役割もあるので、麻沙美さんを守るために愛人宅にいる夫のもとに一緒に向かった。
「麻沙美さんは愛人宅の部屋のインターホンを押して、名乗りました。“子どもたちのために話し合いをしたいから中に入れて”と言うと、愛人が“人違いではないですか”と。そこで押し問答が始まったんです。
すると麻沙美さんが“和正! そこにいるのはわかっているの。出てきてよ”と大声で叫んだんです。近所に聞こえるような大声だったので、私は麻沙美さんを守ろうとしてとっさに“奥さんの友人です。一緒に入れてもらっていいですか”と友人を装って申し出ると、カチャっとドアが開く音がしました」
乗り込んだ妻に同行した探偵は、そこで赤ん坊は夫と愛人の子であることを知った。しかも夫は認知もしているという。
「麻沙美さんが夫に“どういうことなの? この人は誰?”と問い詰めると、愛人から“妻です。この子は私たちの子どもです”との言葉。麻沙美さんもにらみ返し、一触即発の修羅場になるところでした。麻沙美さんは“私はこの人と16年前に結婚して、4人の子どもがいるのよ”とスマホで一家の写真を愛人に見せました」
愛人の顔色がみるみる変わり、黙っている和正さんに向かって、
「“どういうこと? 私が妻でしょう。この人は誰なの?”と問い詰めました。すると夫は大声で泣き崩れ、土下座して2人に平謝りしたんです。同じ男として、あまりにも惨めで、早くこの場から立ち去りたい衝動にかられるような光景でしたね。誰も幸せな人はいないから」
だが探偵には依頼者の警護という任務があったため、暴力沙汰にならないように気を配っていた。夫は泣き崩れたままで、女たちは呆然とし、無言だった。
やがて子どもが泣き出し、その声ではっとなった愛人も、乳飲み子を抱きながら泣いてしまった。それを見た麻沙美さんが決意したように夫に「さあ、家に帰るわよ。子どもたちが待っている」と言ってから、
「この人の会社が倒産して、いま毎日のように取り立て屋から催促をされているの。財務整理のことでこの人と話し合ってから、あなたに必ず連絡をする。あなたと子どものことも考えるから」
と愛人に連絡先を聞いた。
「愛人も状況を察したようでした。麻沙美さんと僕が夫を抱きかかえて、部屋から連れ出しました。そのときには正気を取り戻した夫は泣きやみ、妻と一緒に自分の車で帰宅しました。私は後についていき、車が車庫に入るまで見送ったんです」(前出・探偵)