男女のお笑いコンビは難しい。成功して、長続きしているのは数えるほどだ。
その貴重なひと組が、南海キャンディーズ。最近はしずちゃんこと山崎静代の結婚でも話題になった。相手は4歳上の舞台俳優で、紙芝居詩人でもある佐藤達だ。
また、今年8月には、山里亮太に第1子となる娘が誕生。ふたりそろって、おめでたいニュースである。
そんな南キャンだが、解散の危機もあった。
2004年のM-1グランプリ準優勝で人気コンビとなったあと、'06年にしずちゃんが映画『フラガール』で女優としてブレイク。その後、彼女はボクシングも始めて、'12年のロンドン五輪出場まであと一歩に迫った。
山里も『スッキリ』(日本テレビ系)での「天の声」役が評価されるなど、ピンでの仕事は順調だったが、コンビ活動は減少。彼はこの数年間のことを著書『天才はあきらめた』のなかで「暗黒期」と呼び「コンビ仲は最悪」だったと振り返っている。
その原因は、お笑いへの姿勢の不一致だ。
女子力が決め手に
山里は努力もできる天才で、芸人としての上昇志向も強い。コンビを組むと本人いわく「暴君」のようになってしまう。それまでに組んだコンビは2度とも、相方へのパワハラまがいな熱すぎる要求が災いして解散していた。
しずちゃんに対しても自分と同じレベルの努力を求め、お笑いを究めるよう強要したという。例えば、彼女がオフに海外旅行に行くと聞けば、女芸人のネタを集めたDVDを渡して勉強するように言い、
「エピソードトーク20くらいは持ってきてよね」
と命じる、という具合だ。
『フラガール』の出演依頼も山里には面白くなかった。先にマネージャーから聞かされた際「ここだけでその話終わりにしましょう」と、妨害しようとしたほどだ。
ボクシングを始めたことについても、
《芸事もしっかりできていないのに趣味に没頭する。また僕の怒りの炎は燃え盛る》
と、回想している。
ではなぜ、しずちゃんとは別れずに済んだのか。前出の著書には、コンビ仲が悪化するなか、先輩芸人から聞かされたという彼女のこんな言葉が紹介されている。
《私から解散を言うことはありません。私は山ちゃんが拾ってくれたから今ここにいる》
また、ボクシングについても、本気で取り組むうちに《山ちゃんが言ってた“全力でやれ”って言葉の意味が(略)わかった》と。
こういう態度が、山里の心を柔らかくしたわけだ。いわば、プライドの高い山里をしずちゃんの「女子力」がうまくくすぐったのである。
こうして南キャンはM-1にもまた出たり、単独ライブを行ったりと、縒(よ)りを戻した。
さらに、山里はしずちゃんから『フラガール』で共演して親友となった蒼井優を紹介され、結婚。しずちゃんはキューピッド役として、ふたりの結婚会見にも同席した。
逆に、山里はしずちゃんの結婚には関与していない。夫となった佐藤はしずちゃんの魅力について、
「どうしたの?って笑顔で言われた時に温かいお茶が出てきたような感じがする」
と語った。ここでも、彼女の「女子力」が決め手となったようだ。
芸能やスポーツにおける男女コンビは「夫婦」にもたとえられる。しずちゃんは山里を立てるかたちで自分たちの危機を救い、そのことで夫が妻に頭が上がらない感じをつくったともいえる。
この調子なら、現実の結婚も円満でいけそうだ。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。