おたふくかぜから心筋炎、母子に訪れた危機

「そこから母子共に危険な緊迫の日々が始まった」と中本さんは話す。

「妻はおたふくかぜが治らず、脱水症状を起こし、そのうえ心筋炎を併発して、一時、心不全に陥ってしまったのです。緊急入院から妊娠28週での帝王切開となり、子どもは男の子で無事に生まれましたがNICU(新生児集中治療管理室)へ。妻は危険な状態が続きICU(集中治療室)に入っていました」(中本さん)

 淳子さんが息子と対面できたのは手術から5日後のことだった。

「妻のベッドを息子の病棟まで移動して、初めて母子が触れ合うことができたのです。するとこの日を境に、妻はどんどん回復していきました。子どもに触れたことで、子育てのスイッチが入って、免疫力が高まったのではと思うような出来事でした」(中本さん)

淳子さんと息子さんが初めて対面したところ
淳子さんと息子さんが初めて対面したところ
【写真】淳子さんと息子さんが初めて対面した瞬間

 その後、淳子さんは心筋炎の後遺症もなく退院。子どもは3か月後に退院となり、育児がスタートした。

「コロナ禍でリモートワークが進んでいたことで、子どもと一緒にいる時間が増えたのはよかったですね。お風呂に入れるのは僕の役目なので、飲み会も断って早く帰るようになり、お酒の量が減り、健康診断の数値もよくなりました(笑)。もともと生活習慣病ぎみだということを指摘されていたので、これはありがたいですね。

 そして、僕たちが経験した出産の大変さと56歳からの子育てをフェイスブックに綴っていたところ、その経験を本にしてみないかというお話をいただいたんです。子どもが生まれたことでガラリと人生が変わりました」(中本さん)

息子さんの面倒を見ながらリモート作業中
息子さんの面倒を見ながらリモート作業中

 中本さんには90歳の母親がおり、孫の顔を見せることができた。

「父親は僕が大学生のとき、52歳で亡くなりました。56歳で子どもができた自分は、父親から子育てのバトンを渡されたのではないかと考えています。母は孫の世話をできる年齢ではありませんが、とても喜んでくれて親孝行ができました。妻の母親は70代なので、ときどき育児のサポートに来てもらっています」(中本さん)