ライフプランに前例がなくて困惑

 子育てにはお金がかかるが、中本さんはまもなく60歳の定年を迎える。

 夫婦共に「今を楽しもう」と考え、休みができたら海外を旅し、おいしいお店に出かけるというスタイルで、お金を貯めることは考えてこなかった。

 若い人に比べると、働ける時間が少ない中、子どもの教育資金をどう捻出していくかは大きな課題だった。

生まれたばかりの息子さんを抱っこする中本さん
生まれたばかりの息子さんを抱っこする中本さん
【写真】淳子さんと息子さんが初めて対面した瞬間

「妻も働いており、僕も65歳までは雇用延長で働ける見通しですが、仕事ができるうちは働いて、子どものために少しでもお金を残したいと考えています。学資保険に入ろうと思ったら、20~30代の夫婦を想定した保険がほとんどで愕然としたこともありました。

 ファイナンシャルプランナーに相談し、加入条件がゆるい商品を提案してもらいましたが、選択肢はほぼなかった。シニア子育てのライフプランは前例がないということでしょう」(中本さん)

 2歳になる息子の子育ては、体力面での不安もある。

 淳子さんは「子どもと一緒に昼寝して、休めるときは休んで、体力を温存しています。無理はできません」と話す。

 一方、中本さんは「これから子どもと一緒に遊ぶことで運動不足解消になり、健康になるはず」と前向きだ。

 また、体力面では若い人に比べてハンデがあっても、精神面では余裕があるのがシニア子育てのメリットでもある。

「僕も妻も社会人として経験を積み、周りの人たちから学んできました。息子がやりたいことがあれば、才能を伸ばしてあげたいですが、偏差値の高い大学に入学することが幸せにつながるとは限らないですし、お受験を頑張ろうとも思っていません。周りに流されないのは、この年齢ならではのしなやかさだと思います」(中本さん)

 中本さん夫婦が楽しんで子育てをやっていることで、子育てへの不安が少なくなる人もいるだろう。

「実は子どもが生まれるまでは、よその子どもがかわいいと思ったことがなかったんです。でも、子育てがこんなに面白く、やりがいがあるものだったとは! もっと早く知りたかったです」(中本さん)

 さまざまなライフスタイルの人が増えている昨今、中本さんの発信する情報はとても貴重だ。

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中本裕己さん●産経新聞社「夕刊フジ」編集長。1963年東京生まれ。関西大学社会学部卒。日本レコード大賞審査委員。浅草芸能大賞審査委員。

(取材・文/紀和静)