健康効果が高まる2種類の歩き方
鎌田先生の速遅歩きの“速歩き”は2種類に分かれる。
「速歩きは、大股で歩く“幅広歩行”、そして脚の回転数(ピッチ)を上げる“ピッチ歩行”の2つ。2種類の歩き方に分けることで、さらに健康効果が高まります」
2つの速歩きの具体的なやり方は以下のとおり。
「幅広歩行は、いつもより歩幅を10cm広げて歩きます。速さは普段どおり。下半身をダイナミックに動かすので、筋力の強化と股関節のストレッチに。両腕は振り子のようにリズムよく大きく振って歩くと、全身の運動にもなり、より効果的です。広げる歩幅は最初は5センチ程度で、慣れてきてから10cmという形でも構いません」
歩幅は健康面で重要。認知症のリスク(認知機能低下が発生するリスク)に大きく関わっていることが研究により明らかになっている。
「歩幅の広い人のグループと狭い人のグループで比較してみると、男性では2.3倍、歩幅の狭い人のほうが認知症になるリスクが高い。女性の場合、差はさらに大きく、歩幅の狭い人のほうが5.8倍という研究結果があります」
このデータ、東京都健康長寿医療センター研究所が70歳以上の男女を3年間追跡調査した結果。普段から幅広歩行をウォーキングに取り入れることは、認知機能のために非常に効果的といえる。
続いて、いつもより、“右、左”と脚を出すピッチを速くするピッチ歩行。
「ピッチ歩行は歩幅はいつもどおりで、脚の回転数を上げる。競歩のようなイメージです。ピッチを上げるメリットは、身体に負荷がかかることで酸素を取り込む力が増えて心肺機能が高まる。また下半身の筋肉が強化されます。太ももの筋肉、第2の心臓ともいわれるふくらはぎの筋肉がしっかり使われます」
速歩きの次は遅歩きだ。
「速度はかなりゆっくりで構いません。歩幅はいつもどおり。腹式呼吸を意識することをおすすめします。速歩きで少し上がった息がしだいに整い、ゆったりとした呼吸を続けているうちに副交感神経を刺激することができます。普通の歩き方より強度を高めた速歩きで交感神経が、遅歩きでは副交感神経が刺激されるので自律神経が整います」
鎌田先生はこの3つの歩き方を組み合わせた速遅歩きを15分行っている。
●幅広歩行=1分
●ピッチ歩行=1分
●幅広歩行=1分
これが1セット。その後、
●遅歩き=3分
1セット歩いたら遅歩きを挟み、2セット目→遅歩き2回目→3セット目。以上で合計15分となる。
3つの歩き方を繰り返すだけ、時間は15分程度と非常に簡単だが、“続かない”、“速歩きは疲れて無理そう”という人もいるかもしれない。鎌田先生は、「それ以下でも大丈夫」と話す。
「始めたばかりの人や時間がない、体力がないという人は“手抜き速遅歩き”がおすすめです。所要時間は5分。幅広歩行=1分、ピッチ歩行=1分、遅歩き=1分。その後再び幅広歩行=1分、ピッチ歩行=1分で終了です」
1日5分なら多くの人が日常に取り入れられるだろう。
「ウォーキングは無理せず続けることが大切です。駅から自宅までの道を速遅歩きする。スーパーに買い物に行く道のりでもいいですし、店内で品物を選びながらでもいい。速歩きのスピードや歩幅もこのくらいの速さ・大きさが必要なんだと厳しく考える必要はありません。普段の自分より速めかな、大きめかなと意識するだけでもいい。これで高齢者の方も無理なく続けられるはずです」