ジョンとの結婚と3つの誓い

「アタシたち、戸籍上は男と女だから正式に結婚できるのよね。そうしたら、老後も寂しくないわね」

 借金返済のために全国を飛び回っていたマキさんは、こんなことをジョンさんに冗談めかして話したという。しかしよくよく考えてみると、「結婚」がふたりの抱えるさまざまな問題を解決する手段であることに気づいた。

 そしてふたりは「隠し事ナシ」「ノンセックス」「同性との恋愛の自由を認める」という3つの誓いを立て、友情結婚することを決めた。

 ジョンさんはそのときのことをこう語る。

「特にこれがあったから結婚する、ということがあったわけではなくて、だんだんそうなっていった、という感じですかね。それでマキちゃんが『ジョンの誕生日に籍を入れよう、忘れない日がいいでしょ』と言ってくれて」

自宅でインタビューに答えるジョンさんとマキさん。熟年夫婦のやりとり 撮影/吉岡竜紀
自宅でインタビューに答えるジョンさんとマキさん。熟年夫婦のやりとり 撮影/吉岡竜紀
【写真】女装姿で通っていた大学時代。普段の授業、ゼミ、卒業式にも女装をしていた

 1994年10月、ふたりは夫・宮本昌樹、妻・佳枝として戸籍上の籍を入れた。

 結婚すると、思ってもみなかった変化があった。長年勘当されていた宮本家からお許しが出たのだ。ふたりは実家に里帰りし、マキさんはジョンさんを「嫁さんです」と家族に紹介した。

 マキさんは結婚したことで得たものは「市民権」だと言う。

「正式に夫婦になったことで、扶養控除も受けられるようになったし、借金の保証人にもなれるようになった。それからアタシは結婚したことで親戚だけでなく知人からの冠婚葬祭の招待状も送ってもらえるようになったんです。“宮本夫妻”で招待状が来るのは、うれしいことでしたよ」

 実家からの勘当が解かれ、いつでも那珂湊へ帰省することができるようになったマキさんだが、もちろん女装は厳禁。今でもすっぴんの男装で帰ることが条件だという。その際には大好きな地元のお祭りである那珂湊天満宮御祭禮にも参加しているという。祭りでは締め込みの若衆が御神輿(おみこし)を海で揉(も)んだり、芸者姿のお囃子(はやし)が乗った山車が出るなど、街中が華やかになる。

 前出の地元の先輩である富永さんは「マキさんは人気者なので、若衆もお囃子さんもマキさんを見つけると大騒ぎなんです。だから私もゆっくりお会いする機会がないくらいなんですよ。できたらマキさんには芸者姿で屋台に乗って、お囃子をしてほしいくらいですね」と笑う。