佐々木朗希がチェコ打線を評価
試合後、佐々木は多くの選手がアマチュアとは思えない鋭いスイングを見せたチェコ打線についてこう語っている。
《真っすぐも簡単に打たれましたし、すごい打線だったと思います》
この試合、佐々木の162キロの速球がチェコのエスカラ選手の足を直撃するデッドボールになり、エスカラが倒れ込んでしまうというアクシデントがあった。しばらく痛そうにしていたエスカラだったが、その後立ち上がると、一塁付近で無事を確認するようにダッシュをしてみせる。心配そうに見つめる佐々木ら日本の選手に「大丈夫」とアピールするかのようなデモンストレーションに、観客からは大きな拍手が起こっていた。佐々木は降板する際、エスカラに向かって帽子を取り一礼している。
こうしたフェアプレーや、明らかに格上である日本に全力プレーで挑むチェコの真摯な姿勢に対し、球場の観客からは惜しみない声援が送られ続けた。一方、試合終了時にはチェコがベンチも含めた全員で日本に対し祝福の拍手を送るシーンも見られた。チェコ代表は最後までスポーツマンシップ溢れる行動を見せていた。
そんな礼儀正しさだけでなく、まるで野球少年のような初々しさや素朴でピュアな部分を持ち合わせていいるのも、チェコ代表が多くの日本人を虜にした要因だ。試合中も、ランナーとして三塁上にいた大谷にチェコの三塁手がまるで憧れの選手に会えたような面持ちで話しかけたり、サトリア投手が大谷から三振を奪った後、そのボールをベンチで誇らしげに掲げたり大事そうに握りしめたり、後日練習中の大谷を訪れそのボールにサインしてもらったり。
大きな話題になった、佐々木朗希がデッドボールを当ててしまった選手のホテルを訪れて“お詫び”のお菓子を渡した際も、チェコ選手のほうが「こんなことをしてもらったのは初めて」と大感激。チームメートとお菓子を分け合って喜んだという。
最終戦を終えた後の会見では、チェコのパベル・ハジム監督が日本への感謝の印として日の丸が描かれた鉢巻をつけて登場する一幕もあった。さらに帰国直前には、チェコの選手が東京ドームで練習中の日本代表を訪れ、大谷にチェコの選手のサインが入った代表ユニフォームを手渡すという交流も。
大谷は彼らに自分のサインボールやサイン入バットをお返しとしてプレゼントしただけでなく、その後準決勝の舞台となるマイアミ入りした際にはチェコ代表のキャップを被って空港に姿を現し“友情”を示している。大谷はチェコについて、メディアにこう語っている。
《一番は野球を好きなんだなというのが一番尊敬できるところです。レベルうんぬん関係なく、スポーツ選手として試合を一緒に作っていく対戦相手としてのリスペクトを感じましたし、素晴らしい選手たちだと思いました》
とはいえ、チェコ代表はただ純粋なだけでここまで勝ち上がれたわけではもちろんない。まだまだ国内ではメジャースポーツではない野球の発展のために、選手たちは必死に戦っていた。WBCに出場したことで、チェコ史上初となる野球のテレビ中継も行われたという。実際、今回の活躍で注目度は上がり、帰国した際には多くのメディアが殺到したそうだ。
日本人の心を掴んだだけでなく、本国でもファンを増やした野球チェコ代表。「絶対また日本に来たい」と語っていたが、その約束がすぐ果たされることを期待したい。