アザはできなかったけれど立派なDV
ゆうみさん(35歳、仮名)は、マッチングアプリで知り合ったよしたかさん(36歳、仮名)と、6か月の交際の末に婚約、その2か月後に入籍をしました。
入籍後に一緒に暮らしてみると、付き合っていたときには気づかなかったよしたかさんの性格が見えてくるようになりました。
結局、10か月で離婚に至ったのです。
「実質一緒に暮らしていたのは、半年でした。まずは別居をして、その後の4か月は離婚する、しないでモメていました」
何が原因だったのでしょうか?
「夫婦ゲンカは、どんな夫婦でもしていると思うんです。ただ、喧嘩したときの彼の怒り方に異常性を感じたんです」
結婚して1週間経ったころ、ゆうみさんが夕食後に食器の洗い物をしていたとき、手を滑らせて、よしたかさんのご飯茶碗を割ってしまいました。それは、彼の幼なじみが、「結婚のお祝いに」と送ってくれた夫婦茶碗でした。
「ごめんなさい。河野さん(仮名)にいただいた、夫婦茶碗のよっちゃんの方、手が滑って割ってしまったの」と謝ると、よしたかさんは、「なんてことをしてくれたんだ」と、ゆうみさんを睨みつけ、その後は無言でお風呂場にいきました。
お風呂に入ったようなのですが、お風呂場から桶を床に叩きつける音が何度か聞こえてきました。物にあたって怒りを発散させているようでした。ゆうみさんは、怖かったのと、今ここで何かを言ったら、よしたかさんの怒りが増幅すると思い、無視をしていました。
そして、お風呂から出てくると、髪を乾かすドライヤーの音が聞こえ、その後は、ゆうみさんを無視して寝てしまったというのです。
ゆうみさんは嫌な気持ちになりましたが、「今夜は何も言わずに、明日話そう」と自分に言い聞かせました。
そして、洗い物を終えてからゆうみさんがお風呂に入ろうと洗面所に行くと、ゆうみさんの歯ブラシとヘアブラシが、ゴミ箱に捨てられているのを見つけました。何かの拍子に誤って落ちたのかとも思いましたが、2つがゴミ箱にうまく入るはずもなく、よしたかさんが故意に捨てたのは明らかなことでした。
茶碗を割ったから、仕返し? そう思うと背筋がゾッとしました。
寝室に行くとよしたかさんは、寝息を立てていたので、翌朝歯ブラシとヘアブラシのことを聞いてみました。すると、よしたかさんは悪びれる様子もなく、こう言ったのです。
「僕の友達からもらった大事なご飯茶碗を割ったんだから、おあいこでしょう? というか拾って洗えば、まだ使えるでしょう」
その言葉に、またゾッとしました。
妻の顔にビールをかける夫
その週末に、よしたかさんの大学時代の友人、江森さん(仮名)が、家に遊びに来ました。ゆうみさんは、お昼ごはん用意し、手料理作りとお酒を振る舞ってもてなしました。3人で食事をしながら、ゆうみさんはその場を盛り上げようと江森さんにいろいろ話題を振ったのですが、的外れな答えばかり返してくるので、話が噛み合いませんでした。
そしてその夜、2人で夕食を食べているときに、ゆうみさんがよしたかさんに言いました。
「江森さんって、ちょっと変わった人だったね」
すると、よしたかさは、飲んでいたコップのビールをゆうみさんの顔にめがけてひっかけたのです。ゆうみさんは、何が起こったのか、わかりませんでした。あまりのショックに、顔にかかったビールをタオルで拭いた後、その日は家を出て、ホテルに泊まったといいます。
「なんでこんなことで? と思うようなところで怒るんです。そして、怒りの表し方に異常性を感じました。彼は、決して私のことを殴ったりはしないから、痛い思いをしたり、身体にあざができたりすることはないんです。ただ身体が傷つかなくても心が傷つく。これって、立派なDVだとも思ったんですね」
“一緒に暮らしてみないと、本来の人間性はわからない”。それが最初の結婚で学んだことでした。
「再婚するときには、まずは一緒に暮らしてみて、そこから入籍をしようと思います」