バカにされたら殴りかかった
その一方で「まさかこんなに長く生きるとは思わなかった」と、感慨深く語る。
「私がこの世界に入ったころは『オカマ』と呼ばれて、化け物扱いなんて当たり前。本当にひどい状況だったけど、いちいち傷ついていたら生きていけなかった。嫌なヤツには『なんだこの野郎!』って殴りかかってましたよ(笑)。ちなみに私は、トイレもお風呂もずっと女性用を使っているけど、何も言われたことがないわ。私にとってそれが自然な選択だから、周りの人も気にならなかったのかもしれないですね。そもそも、去勢をして胸もある私が男湯に入るほうがおかしいわよね」
どんなときもどこの国でも“自分らしさ”を貫いてきた。それでも、男性時代の「平原徹男」という本名は、長らくひた隠しにしていたという。
「もしも、平原家の次男がカルーセル麻紀だなんて地元で知られたら、家族が苦労するかもしれない。親、きょうだいには迷惑をかけたくなかったから、妹が結婚するまで本名は口が裂けても言えなかった。それが今では、たくさんのゲイタレントが活躍して、多くの人が私たちのようなLGBTQについて知り、考えてくれている。私たちの時代ではありえないことがどんどん起きてる。長生きはしてみるものね」
性転換手術に戸籍の性別変更──。彼女がカルーセル麻紀でいるために戦う姿は、今も多くの人に勇気を与えている。
そして彼女は現在、新たな仕事にも挑戦中とのこと。
「今はまだ詳しくはお伝えできないけど、5月ごろにはご報告できそう。みなさん、期待して待っててね♪」
女盛りの“19歳”。今年も私たちを楽しませてくれそうだ。
カルーセル麻紀(かるーせる・まき)●1942年、北海道生まれ。15歳でゲイボーイになる決意をして、札幌のゲイバー「ベラミ」で働き始め、その後、大阪「カルーゼル」などの有名クラブで名をはせ、映画やラジオ・テレビでも活躍。1972年にモロッコで性転換手術を受け、2004年には戸籍上も女性に。ゲイ界のパイオニアのひとり。
取材・文/大貫未来(清談社)