だが、この銃創の詳細が明らかになる。'22年9月30日に奈良県議会で奈良県警本部長がこんな説明をしたのだ。
「首の銃創は右前頸部の1か所で、その近くに擦過傷、つまり“かすり傷”があったと明らかにしたのです。そして“右前頸部が射入口となり体内に入った弾丸は右上腕骨に至っていた。心臓には銃による傷はなかった”と説明がなされました」(同・記者)
なぜ説明に齟齬が生じたのか
この経緯から浮かび上がるのは3つの“矛盾点”だ。
第1の矛盾は『救命医の所見と解剖結果の食い違い』。
救命医は右前頸部から銃弾が入り、弾が心臓に達したことで穴があき致命傷となった、と説明するが、警察は左上腕部から入った弾丸が左右の鎖骨下動脈を傷つけ致命傷となったと話し、心臓の穴もなかったとした。なぜ、このような齟齬が生まれるのか?
法医学の権威で、千葉大学大学院法医学教室の岩瀬博太郎教授は、
「救命医は傷の鑑定に不慣れですから、私たちが行った解剖結果とまったく違うということはよくあること。なにより救命医は命を救うことが仕事です。われわれが証拠保全のため解剖をする前に、弾丸がどこから入り、何が致命傷になったのかなど、会見を開かせ救命医に聞くことが間違いなのです。私は解剖結果が間違っているとは思いません」
心臓の傷の有無についても食い違うが、ここにはある情報が追加される。
自民党の青山繁晴参議院議員が安倍元首相の心臓の傷について警察庁幹部に問いただしたところ、
「挫滅(ざめつ)があった」
との回答を受けたことを自身のユーチューブチャンネルで明かしている。
挫滅とは外部からの強い圧力などによって、その組織が破壊されることをいう。つまり、安倍元首相の心臓に外部からの圧力が加わり傷ついていたということ。ただ、銃弾による傷ではないことも青山議員は明らかにしている。
銃弾による傷でないのであれば、何が原因だったのか。
銃創治療に詳しく、救命救急医療の第一人者である二宮宣文医師は、
「治療を行う中で開胸をして直接心臓マッサージをする際に医師が傷つけてしまうことは確かにある。ただ、今回の件では救命医がつけた傷だとは思いません。銃弾を受けるとその衝撃波が全身に広がり、心臓に穴をあけることがあるのです。私は、その衝撃波によって穴があいた可能性があると考えている」