第2、第3の“矛盾点”は、安倍元首相の暗殺事件を巡り『週刊文春』でも検証がなされた『弾道』と『消えた銃弾』についてだ。
前出の高鳥議員が話す。
「私が訴えているのは、山上被告が放った銃弾の弾道と安倍元首相が受けた銃創の位置が一致しない可能性があるという物理的な問題です」
どういうことなのか。
「山上被告は安倍元首相のほぼ真後ろから銃を撃っているのですが、安倍元首相が自然に振り向いた状態では、喉仏の下にかすり傷を負わせることはできても、右前頸部を目視することはできない。つまり右前頸部に弾を当てることは不可能なのです。かすり傷よりも手前に射入したなら首の左側に当たらなければおかしいでしょう」(同・高鳥議員、以下同)
専門家の見解
仮に安倍元首相が大きく振り返ったならば、確かに右前頸部に弾は当たるが、今度は擦過傷をつけた弾丸も体内に射入してしまう。
「さらに説明がつかないのは右前頸部から入った弾丸が右上腕骨で発見されている点です。演台に乗っている安倍元首相に向けて下から撃った弾が仮に右前頸部に当たったとしても下に向かって動くことはありえない」
高鳥議員は真相究明のため、さまざまな専門家に意見を求めてきた。
「銃創に詳しい医療関係者は“頸椎に当たって下に向かう弾道を描いたのではないか”と話しました。そうなると弾丸は射入口と頸椎を結んだ延長線上から飛んできたということになる。安倍元首相が大きく振り返った場合には起こりえるが、そうなると致命傷となった左上腕部に当たった弾丸が鎖骨下動脈の方向へと向かう弾道を描かない。つまり、すべての条件を満たす解はないのです」
海外で銃器の試射や対物実験を行う銃器研究家の高倉総一郎氏は、こんな見解を示す。
「北側を向き、足を組み替えず自然に振り返った状態だと、真後ろにいた山上被告に対して上半身は垂直に近い状態になっていたと考えられます。その状態で、右前頸部に弾丸が射入することはありえません。ただ、それは右前頸部の銃創が本当に射入口であれば、の話です」
そう話し、高倉氏はこんな仮説を立てたと続ける。
「頸部に擦過傷をつけた傷が射入口であり、右前頸部の銃創を射出口であると仮定したならば、すべてに矛盾しない説明が可能です。擦過傷の位置と右前頸部の銃創の高さが違っていますが、後ろに振り返った状態だとその高低差はなくなるのです」