周囲の手助けで虐待を断ち切る

 子どもの心身や脳に大きな傷を残す「虐待」。前述のような事情も含め、幼少期の体験が子どもの将来的な素行に悪影響を及ぼすことも。

「親が仕事のため不在にしがちで、ネグレクトのような状態になっていた家庭の子どもが、思春期になって素行不良になってしまった例も報告されています」(前出・吉田さん)

 虐待を受けた子どもの心の傷は、子どもの将来にも影響を及ぼし、ひいては日本の未来にまで影を落とすことが懸念されている。

虐待によって行動や精神上の問題を抱えていたり、自己評価が低く、対人関係がうまく築けなかったりする子どもは少なくありません。こういう子どもが増えるのは、日本の将来にとっても大きな損失になります」(前出・加藤先生)

 とはいえ、虐待を受けている子ども自身がSOSを出すことはとても難しい。だから家庭や子どもの様子、服装、健康状態などから周囲の大人が気づいてあげる必要があるが、日本人は『もし間違いだったら』と考え、通報に二の足を踏んでしまう傾向がある。

「怒鳴り声や大きな音が聞こえる、子どもが1人で外をうろうろしているなど、ちょっとでも異変を感じたら、まずは近くの児童相談所に連絡してください」(前出・吉田さん)

 児童相談所が即座に対応することが難しい場合もあるが、情報が寄せられれば、地域の民生委員と連携して家庭訪問などを行うこともある。

「また、大人同士だからこそできる対応もあります。もし、虐待をしている人が親しい間柄なら、相談相手になってあげるだけで状況が改善されることも。さほど親しくはない相手なら、児童相談所や自治体の育児に関する窓口に連絡をしてください」(前出・加藤先生、以下同)

 通報ではなく「心配なご家庭があるのですが、大丈夫でしょうか」という1本の連絡が、子どもの心身の安全を守ることにつながる。また、保育園や学校に、心配だと伝えるだけでも改善に結びつく。

 4月からは、子どもの権利を守ることを目的に設立されたこども家庭庁もスタートするなど、子どもたちを守る動きが加速しつつある。行政による虐待対応はどこまで世の中の事情に追いつけるのか。