目次
Page 1
ー 住まい方アドバイザー近藤典子さんの現在
Page 2
ー スポ根ドラマのような青春時代
Page 3
ー 不運にも実家が家事に
Page 4
ー 縁の下の力持ちから“収納ブーム”の主役に
Page 5
ー 収納の枠を超え、“住まい”に舵を切る
Page 6
ー 姑と同居し介護も。母の言葉を肝に銘じて
Page 7
ー 片づけ“ビフォー・アフター”を再開した理由

 

 “片づけ・収納”のノウハウを世に広めたのは、この人が最初かもしれない。'90年代にメディアに登場。カラーボックスや突っ張り棒、ティッシュの箱など身近な道具を使って、すっきりと物を収める近藤典子さんによる収納術は、誰もが実践しやすく、ブームを呼んだ。

住まい方アドバイザー近藤典子さんの現在

新宿にあるLIXILのショールームには、彼女が提唱する収納の“極意”「350㎜(35㎝)の法則」をわかりやすく可視化したコーナーも
新宿にあるLIXILのショールームには、彼女が提唱する収納の“極意”「350㎜(35㎝)の法則」をわかりやすく可視化したコーナーも

 その後、近藤さんは、家の中の収納システムや、住みやすい家づくりにも関わり、“住まい方アドバイザー”として活躍の場を広げている。

 現在の近藤さんの活動を追って、住宅設備メーカーLIXILのショールームを訪ねた。

 フロアの一角に、「LIXIL×近藤典子」と銘打った収納システムのコーナーがある。これまで35年以上の片づけに携わり、物や収納空間などの寸法を測り続けてきた経験値から生み出された商品だ。開発の経緯を、近藤さんはこう振り返る。

「あるとき気づいたんです。そもそも押し入れやクローゼットなど造りつけの収納スペース自体が、現代の暮らしや物のサイズに合っていない。ならば……と、閃いたんです。使いやすく、片づけやすい収納ユニットを作って、押し入れ・クローゼットに丸ごと設置すればいいのではないかと」

 近藤さん開発の収納ユニットは洋服をかけるパイプの位置や数、棚板の高さや奥行きを簡単に変えられるのが特長。そのため、入れる物や、使う人が変わっても、それに応じて収納の形を変えられる。

 近藤さんが特にこだわったのが「35cmの法則」に基づく高さだ。

「引き出しケース、12個入りのトイレットペーパー、雑誌・書類など、よく使う生活用品は35cmの高さに収まるということに、私、気づいたんです。洋服も、トップスは35cm×3、コートは35cm×4の高さに収まる。つまりほとんどのものは35cmの倍数で収納できる。それで35cm刻みで棚板やパイプを設置できるようにしたのです。そうするとデッドスペースをつくらず、空間を効率よく活用できます」

 もうひとつのこだわりが、長く使える商品である、ということ。

「パネルなので、外してほかの場所に設置することも可能です。ただ、使い回しがきいて、何十年も使える商品って、製造販売するメーカーさん側にとっては、儲かる商品とは言い難い。消費者が頻繁に買い替えてくれたほうが儲かりますから。でも、LIXILさんが私の思いを理解し、賛同してくださったときは、うれしくて泣きそうになりました」

 一緒に商品開発に携わったLIXILインテリア事業部の藤澤玲子さんは、こう証言する。

「私はもともと近藤先生が主宰する『住まい方アドバイザー養成講座』の受講生だったんです。使う人に寄り添い、暮らしに合った収納を、という先生の考えに共感し、商品化に至りました。先生は徹底して、購入者、つまり使う人の身になって考える。私たちもその意識は当然あるものの、やはりある程度は量産でき、利益も出さなければならない。双方の折り合いをつけるのに時間がかかりましたが、そのぶん納得できるものができあがりました。先生はいつも前向きで、会うたび元気をもらっています」

 お客様に喜んでもらいたい。

 その心意気は、「そもそも大阪の商人の娘ですから、自然に身についたのかもしれませんね」と近藤さんは笑う。