かもめんたる・岩崎う大が、注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人は男性ブランコ。
料理で例えれば滋養にあふれる食材で作られた高級ハンバーガー
男性ブランコの2人は似ている。平井くんと浦井くん。名前も似た2人は、誰しもが学生時代、自分のクラスメートにいたように思える2人組ではないでしょうか。
「平井と浦井はいっつも一緒にいるなあ」と担任の先生がこぼしている光景を見た気さえしてきます。『ちびまる子ちゃん』に登場していてもおかしくありません。
そんな2人の雰囲気が親近感となり、今の人気の要因になっているとも思うのですが、以前の2人を見ていた僕はこのような未来を予想することはできませんでした。
キングオブコント2021で準優勝したことにより、彼らはブレイクし、その後、漫才でもM―1グランプリ2022では決勝で4位の好成績を収めています。
コントも漫才も一流のコンビなのですが、彼らのネタの特徴は、「世界観が強い」ということでしょう。M―1グランプリでは、「音符を運ぶ」という荒唐無稽な設定をしっかりと笑いに変え、その世界観を見事に押し出していました。
とはいえ、男性ブランコは漫才師というよりコント師だと思うのです。コント中に彼らが表現するキャラクターには、しっかりとしたバックグラウンドが匂い立っています。彼らがネタ中に発している言葉以上の情報を観客はそこに感じることができるのです。
なぜそんなことが可能かというと、「リアリティー」がキーになってきます。コントに登場するようなアクが強く、常軌を逸したキャラクターも丁寧に描写されることによりリアリティーを帯びていきます。
強烈なキャラクターなのに「どっかにいそうな人間だ」と感じる瞬間がありますよね。あれです。
あの瞬間にわれわれは、個々で自分の持っている現実世界の情報をそのキャラクターに投影しているのです。それにより、コントの世界は一人ひとりの中でぐんぐん広がっていきます。
男性ブランコはそんなコントが昔から得意でした。ただ、こういうネタは、観客のそれまで歩んできた人生、出会った人や、映画やドラマ、本によって伝わり方が変わっていくので、「好きな人は好き」というジャンルに分類されてしまいがちです。
ブレイクする前の彼らの単独ライブを見させてもらったことがあります。まさに「好きな人は好き」といった感じで、僕も激しく心をつかまれました。
しかし、料理に例えるなら、栄養バランスにも気が配られていて、その分滋養に満ちたおいしさはあるんですが、空腹時に真っ先に食べたいと思わせるような、パンチがないとでもいいましょうか。
腹ペコになって懐石料理のコースを食べに行く人って少ないと思うんです。ハンバーガーやラーメンに負けてしまいます。
他人事ながら、どうしたら彼らはブレイクするかと思案したものです。しかし、キングオブコントの決勝で彼らが披露した「ボトルメール」のネタは、わかりやすい裏切りがいくつもありつつ、得意の丁寧な役作りもしっかりある抜群に面白いネタでした。滋養に満ちた食材で作られた高級ハンバーガーのような強さがそこにはありました。
さらにいったん世に出た彼らは、派手な個性はないけれど2人並ぶことで勝手にいろんな妄想を抱かせてくれるというタレント的な魅力も放っていました。それは、まるで彼らのコントの中のキャラクターたちのように。
今さらですが、僕は男性ブランコの魅力はこれからさらにぐんぐん広がっていくと予想させていただきます。
岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中