『週刊女性』アラフィフ記者、山ぴーには推しの作家がいる。2018年のデビュー作『藻屑蟹』で大藪春彦新人賞、2021年『犬』で大藪春彦賞を獲った赤松利市先生(67)だ。
赤松作品にハマるきっかけとなったのは2019年に出版された『ボダ子』。クズ過ぎる主人公と境界性人格障害(ボーダー)の娘の話だ。読んでいてブルーにしかならない物語だが、なんと私小説であると知り、ぶったまげた。この最悪のクズ野郎が著者自身で、ほぼ体験談だなんて。こんなに200%醜いアホな自分をさらけ出せるなんて、天才か変態か。見本版の書籍を読み終わってすぐ取材を申し込んだ。
香川弁がチャーミング
指定された取材場所は浅草のファミレスだった。同じビルの上階が先生の執筆場所の漫画喫茶だという。珍しく10分前に到着した私はいそいそと喫煙所へ。そこにいた危険な雰囲気の巨漢紳士……それが赤松利市先生だった。
アウトローな見た目にひるんだものの、取材班を漫画喫茶のマイ個室ブースに案内してくれた先生。原稿を打つポーズや、雑誌コーナーで『週刊女性』を立ち読みするポーズまでとってくれる。いい人じゃないか。私のイメージは180度変わった。トークも知的でシャレが効いている、丸出しの香川弁もチャーミングだ。
ちなみに「赤松利市」で検索すると出てくるサングラス姿のいかつい写真。あれは、あちこちの版元で求められるままに作った「赤松利市」像だ。サングラスは撮影前に浅草ドンキで1000円で購入したもの。本当にサービス精神旺な先生なのだ。
“62歳、住所不定、無職”──。先生のデビュー作の帯はパンチがきいていた。実際、デビューの状況から「ホームレス作家」と呼ばれることもあったが、実は世界的学者を父に持つ帰国子女でバリバリの英語ネイティブ。
有名大学を卒業後、就職。独立、起業し年収2千万円を得るまでになったが、20××年に経営が破綻。その後、震災復興の土木作業員、除染作業員の職を経て路上生活に至る。路上生活を送りつつ漫画喫茶に通い、書き上げた小説で賞を得て62歳で作家デビューを果たす……。