海外人気が上がると同時に海賊版も増え
コロナ禍になる以前、やましたさんに中国や台湾で講演をしてほしいというオファーが後を絶たなかった。
台湾での講演の参加者がこんなことを言った。
「台湾の人にこの本をすすめると“勉強します”と言う。けれど、日本人の経営者に言うと“わかりました。では帰って妻に読ませましょう”と言うんですよ」
投資の仕事で中国と日本を行き来しているファン・ユエさん(44)は、2013年、中国の大学に「やましたさんを講演で招きたい」と相談されたことがきっかけで、やましたさんとコンタクトをとった。それだけのはずが、講演当日、通訳が来られなくなったために、急きょ代役を務めるハメになったという。
「私は断捨離を知らなかったんだけど、やましたさんの話は、私が実践していることと同じだと知りました。生活の哲学をまとめた方、素晴らしい人だと知って、すっかり好きになりました」
以来、中国でのやましたさんの講演は、すべてファンさんが通訳を務める。
一方、中国では断捨離の名を使用した海賊版が、何百万冊も出回っていたが、ファンさんが中国国内での出版物を管理し、弁護士と連携して訴訟も行っている。
「ユエちゃんは正義の塊だからね」とやましたさんのお墨つきである。
“主婦の東大”!? 断捨離トレーナー狭き門
10年ほど前から、「断捨離塾」では断捨離トレーナーという資格制度を構築した。
断捨離のプログラム全6巻36時間を学び、断捨離検定1級の講座、セミナー、レポート、筆記試験があって、それを通過すると、やましたさんとの面談。そこで合格すると1級認定となる。「合格率は5%くらい。主婦の東大ですね(笑)」とやましたさん。
そうして、1級認定者の中から、断捨離トレーナーとなった人が現在119人。
2011年に塾生初の断捨離トレーナーになった檀葉子さん(68)が言う。
「私は、以前は収納にハマっていたんです。大きな物置を作ったりして。でもだんだん閉塞感と焦燥感に駆られるようになってました。断捨離のことを知ったときは、“これはないだろう”と思った。それを確かめるためにセミナーに行ってみたんですね」
やましたさんの第一印象は「華奢な人」だったらしい。ところが、しゃべり出すと、ものすごいパワーに驚愕する。
「そこから、目から鱗が落ちて断捨離に夢中になったんですね。その後、要望に応えトレーナーとなり、福岡断捨離会立ち上げコミュニティーができていました」
現在、檀さんは「卒婚」して、まったく新しい断捨離トレーナーの道に踏み出し、断捨離の広まりに合わせ、全国を飛び回って講座を開催している。
いろいろな人を惹きつけてきたやましたさん。彼女は今、忙しい日々の合間を縫って、鹿児島県指宿に通う。
「私がプロデュースするリトリート施設『リヒト(光)』を進行させています。リトリートとは“一時退避”という意味なんだけど、これからの未来を創造するためにいっとき退避する場所、自分を立て直す場所という意味で、ホテルとはまったくスタイルの違う、実家に帰るようなタイプの宿泊施設なんです。美しい自然と光に満ちた、とてもいい場所なんですよ」
やましたさんは、すでに指宿に住民票を移したという。
小松市にいる夫は仕事を引退、犬と暮らす。息子は地元の女性と結婚し、同じ小松市内在住。5歳になる女の子の孫もいるが、やましたさんは3回しか会っていない。
「全然会いたくならない。自分のことで頭がいっぱいだから(笑)。その辺も断捨離なんです」
ここまでくると、もう「清々しい」としか言いようがない。
断捨離の提唱者は、まさに「半端ないダンシャリスト」であったのだ。
<取材・文/小泉カツミ>
こいずみ・かつみ ノンフィクションライター。芸能から社会問題まで幅広い分野を手がけて、著名人インタビューにも定評がある。『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』『崑ちゃん』(大村崑と共著)ほかにも著書多数。