慰謝料は200万から300万円が限度
夫の退職金の分与が期待できるなら、退職の半年ほど前から弁護士に相談するなど準備を。
「退職金が入った途端、下ろして使ってしまわれたケースもあります。使われてしまってからでは取り戻せません」
離婚に詳しい原口未緒弁護士によると、妻側が離婚時に期待する慰謝料については、あまりあてにできないという。
「モラハラを受けていたぐらいだと証拠にはなりにくい。不倫や身体的暴力など、夫側にはっきりとした責任があったとしても、取れるのは200万から300万円が限度です」
ただし、離婚が成立するまでの生活費は、別居している場合に受け取ることができるという。金額は家庭裁判所が示している算定表などをもとにして決められるので、しっかり請求をしたい。
損をしない離婚を成立させるためにどのような見極めが大事なのだろうか。
「まずは経済的な自立が可能かシミュレーションしてみてください。老後資金はいくら必要なのか、足りない場合は、子どもに面倒を見てもらえるのか。離婚後の暮らしを想像してみないと、覚悟が決まらないと思います。お金もなく頼れる人もいなかったら、こんなはずでは、となってしまう。
離婚したら離れていく友達もいます。若ければ“この人が嫌”っていう理由だけでも離婚できますが、シニアになってからでは、自分の命までも縮めてしまうことにも」
夫婦でいたころよりもつつましい生活ができる覚悟がないと、熟年離婚は難しい。離婚をしても心が豊かに暮らせる覚悟があるかどうかが決断の決め手だ
岡野さんが今まで相談を受けた「60代妻の離婚」
ケース1・A子さん(専業主婦・60歳)
A子さんは結婚30年目。高校3年生になる息子が来年、大学に入学して家を出るので会社員の夫(62歳)に離婚を切り出した。
「夫はリモートワークで在宅時間が増加、モラハラが多く一緒に過ごすのが限界でした」。
夫の預貯金は少なく財産分与も期待できなかったが、A子さん自身が親から相続した財産があり、シングルとしての生活のめども立ったため、離婚が成立。
ケース2・B子さん(専門職・63歳)
正社員として長らく勤め、個人資産を3000万円以上所有していたB子さん。しかし、法律上は夫婦が結婚している間の財産は共有財産とみなされるため、離婚する場合は夫(62歳)と分与しなければならない。
夫の財産は隠されてしまっているため、離婚しても分与は望めない。自分が損をするくらいなら……と長年、離婚を諦めていた。しかし「60代、お互いの人生を有意義にするため」と夫を説得、お互いの財産を分割する形で円満離婚をした。
ケース3・C子さん(専業主婦・63歳)
子育ても終了、40年以上連れ添った夫(65歳)は、起業に成功し財産もある。このまま、夫が亡くなったあとの遺産相続を待とうと考えていたが、夫には20年以上付き合っている愛人がいることが判明。愛人に財産を取られる前に、早く財産を分与してもらって離婚しようと決意した。
夫からもらっている生活費を貯めて老後資金にすることや、子どもが会社を引き継いだときに、自分を役員にしてもらって報酬を受け取れるようにするなど、岡野さんからの離婚に向けたアドバイスを粛々と実行中。
岡野あつこさん 公認心理師。33年前に離婚相談室を設立、相談件数は4万以上。離婚カウンセラー養成講座で後進育成。㊙テクニックを交えた的確なアドバイスが好評。近著に『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』。