これからも日々の診療は続けていきたい

「いい人でいるだけでは精神科医の仕事は務まらない」と話す藤野さん。今日も診察室で、患者さんに寄り添って診療を続けている(撮影/伊藤和幸)
「いい人でいるだけでは精神科医の仕事は務まらない」と話す藤野さん。今日も診察室で、患者さんに寄り添って診療を続けている(撮影/伊藤和幸)
【写真】「このころからイケメンの雰囲気」精神科医・藤野智哉さんの高校生時代の卒業アルバム

 藤野さんから「これは書いておいてほしい」と言われたことがある。それが、「いい人だと思わないでほしい」ということだ。

「僕は仕事が精神科医なだけで、決していい人ではありません。それを声を大にして言いたい。こんなことを言ってしまう時点で、小賢しいですけど(笑)」

 いいイメージがついてしまうと、勝手にハードルが上がって、勝手に期待される。もしイメージと違ったら「こんな人だとは思わなかった」と言われる。でも、いい人でいるだけでは、精神科医の仕事は務まらないのだ。

「精神科医って、患者さんに嫌なことを言うのも仕事なんですよ。患者さんの話を聞いて、“うん、うん、つらいよね”と言っているだけでは治療になりません。きちんと伝えることは伝えて、必要な治療もしなければならない。もし僕が精神科医の現場の仕事を辞めて、発信者だけになってしまったら、きっといいことしか言わなくなるでしょう。それではきっと、その人のためにならなくなる。だからこれからも現場の仕事は続けていきたいんです」

 小さいころから病弱だった。今でも薬は服用しているものの、健康のために何かをすることはないし、タフでもない。掃除も嫌いでだらしない、と自虐する。華奢な身体のどこから、そのバイタリティーとパワーが出てくるのか─。

 これからもどこかの誰かの心をふっと楽にする情報を発信し続けていくのだろう。そんな藤野さんから、まだまだ目が離せそうにない。

取材・文/樋口由夏

ひぐち・ゆか 出版社、編集プロダクション勤務を経て、'08 年よりフリーランスライター、エディターとして独立。単行本の編集・構成・執筆を中心に、雑誌、WEBにて主に健康・暮らし・子育て・教育などの分野で編集・ライターとして活動中。