「強いやつが強いんじゃない、弱いやつが強くなるのが一番すごいんだ」
この言葉をかみしめるように伝えるのは、笠原崇志。
第28回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト審査員特別賞を受賞し、当時も個性的なキャラクターとパフォーマンスが話題となった。
「俳優になりたかったけど目指す方法もわからずにいた大学3年のとき、コンテストのことを知って応募しました。本番では、自分の心の中にあったものをラップにして披露して。ありがたいことに大手事務所に入れたんですけれど、すぐに演技の難しさに直面しましたね。セリフ覚えも悪いし、下手なくせに役作りとかしようとして、バイトでも注意されっぱなしだし、しばらく空回りしてました。これはもうどうにもならないと」
「俺はおまえみたいなやつが好きだよ」
八方ふさがりだった彼に、2019年の夏、出会いが訪れる。笠原が初主演を務める映画『青春墓場』の奥田庸介監督だ。
「もともと監督のファンで、偶然路上で見かけてファンなんですって声をかけたところから始まって、ある日オーディションに呼んでもらいました。これで受からなかったらもう芸能界をやめようという気持ちでした。3日間にわたるオーディションで1回敗退してるんです(笑)。でも敗者復活戦があって、監督が“なんか俺はおまえみたいなやつが好きだよ”と言って選んでくれました。そこでこれは自分のすべてを捧げよう、自分の遺作にしよう、と」
苦労してつかんだ、自身初の主演映画が2年越しに劇場公開するという喜ばしい時を迎えてもなお、笠原が胸を張ることはない。
「この映画を撮って成長なんかしてないです。ただ、下手でもいいやって思えるようになった。自分みたいなばかなやつでも俳優できてるんだってことが、誰かの救いになったらいいなと思いますね」
彼の追う光はどこにあるのか。気になる才能から目が離せない。