「企業広報×フリーアナウンサー」というパラレルキャリア

 戸谷氏は現在、セガサミーの広報だけでなく、パラレルキャリアでフリーアナウンサーとしても活動しているのだという。(※パラレルキャリア→本業を持ちながら、第二の活動をすること)

「元々、アナウンサーの仕事が嫌になったわけではなく、声の表現の仕事はずっと続けていきたいと思っていました。会社員として勤務する他に、ケーブルテレビで高校野球の神奈川大会の実況や、eスポーツの実況のお仕事もいただいたりしています」

 今、注目され、増加傾向にあるパラレルキャリアだが、会社員との両立は簡単ではなさそうだ。収入が増えること以外にどんなメリットがあるのだろうか。

「前提として、広報のプロとして成長しなければと思っています。今はとにかく時間のやり繰りが難しいですね。高校野球の実況もそうですが、アナウンサーの仕事は情報収集など準備に時間がかかるので、睡眠時間を削ったりしてなんとか調整しています。好きなことなので苦にはなりませんが、それぞれ仕事のパフォーマンスに影響が出ないように気を使っています。

 パラレルキャリアのメリットとしては、アナウンサーという仕事は非常に限定的で、アナウンサーを求めている場所にしかニーズがありませんが、『私はセガサミーの広報担当で、フリーアナウンサーもやっています』とお話することによって『スポンサーになってイベントを一緒にやりませんか』というような別の話もできます。

 仕事の幅が広がりますし、そこは両輪でやっていて本当に良かったと思う部分です」

キー局アナの転職で感じるキャリアの危機感

 近年、アナウンサーの転職のニュースが増えていることについて、当事者でもある戸谷氏はどのように感じていたのだろうか。

「私もまさに、トヨタ自動車に転職された富川悠太さん(元テレビ朝日)やフリーアナウンサーでありながら研究者でもある枡太一さん(元日本テレビ)のニュースを見て、これはアナウンサー1本では厳しい時代が来ているのだと感じました。

 キー局のアナウンサーがこれからという時期に退職していく現実を目の当たりにして、アナウンサーがそれまでのキャリアを活かしながら異業種に転職する、パラレルキャリアを築く、そういう時代が来ているのだという危機感は私を含めてローカル局のアナウンサーはなおさら感じている部分だと思います」

 キー局アナウンサーの転職のニュースは、知名度が全国区ではないローカル局アナウンサーにとっても危機感を感じる出来事であるという。そのような状況のなかでセカンドキャリアに踏み出した戸谷氏に、これから実現したいことを聞いてみた。

「まずは企業広報のプロとしてスキルをしっかり身につけて勝負できるようになりたいです。アナウンサーとしては戦えますが、まだまだ企業人としては勝負できないので。

 現在、セガサミーにはバスケットボールチーム『サンロッカーズ渋谷』、ダンスチーム『SEGA SAMMY LUX』、競技麻雀Mリーグに参戦する『セガサミーフェニックス』といった3つのプロチームがあり、さらに社会人野球チームが活動しています。

 個人的には、一つの競技にフォーカスするというよりは、スポーツを通じた場作りをしたい。例えば『サンロッカーズ渋谷』は渋谷界隈で活動しているので、街とバスケットボールのつながりで地域を盛り上げるキーマンになっていくというようなことですね」

 スポーツと地域のつながりという点では、地域に根ざしたローカル局アナウンサーならではの経験が存分に活かせる領域かもしれない。活動のフィールドを広げ、企業広報とアナウンサーという2つの武器を手に入れた戸谷氏の今後の動きに要注目だ。

※戸谷氏のセカンドキャリアや転職に対しての考えなど詳しい内容はWebサイト『エンタメ人』にて→https://entamejin.com/column/archives/7309

戸谷勇斗(とたに・はやと)●東京都大田区出身。中学・高校時代は陸上競技部に所属、法政大学卒業後は愛媛朝日テレビにアナウンサーとして入社。夢だった「東京オリンピック・パラリンピック2020」の取材活動に関わり、2022年9月同社を退職。現在はセガサミーホールディングス株式会社の広報室に勤務する傍ら、フリーアナウンサーとしても活動中。
取材・文/別府彩(べっぷ・あや)●タレントキャリアアドバイザー。10年間フリーアナウンサーとして活動。31歳で遅咲きのグラビアデビューを果たし、「踊る!さんま御殿!!」などのバラエティ番組に出演。33歳で芸能界を引退。自身の転職経験を活かして、株式会社エイスリーでパラレルキャリア・セカンドキャリアを望むタレントのサポートを行う。