Case5:自宅を相続すると生活費がなくなり路頭に迷うことに……

 60代Eさんの夫が残した相続財産は評価額6000万円の自宅と現金や預金など1000万円の合計7000万円。現金や預金が少なく資産は極端に自宅へ偏っていた。一人息子は結婚していて別に世帯を構えている。

 夫の葬式なども終えた後で、Eさんは息子と遺産分割について話し合うことに。すると息子はEさんが自宅を相続するのには大賛成と言いながら、代わりに現金や預金1000万円は自分が欲しいという。

 自宅をもらえるのはいいとして、1000万円がすべて息子の元に行ってしまえば、当面の生活費に困ってしまうし、自分の老後資金も心配。

 住み慣れた家に住み続けたいと考えていたEさん。しかし、ある程度まとまった現金を持つためには自宅売却も検討しなくてはならないかと、頭を悩ませた。

「Eさんのケースは『配偶者居住権』という残された配偶者の生活を守る権利を使って解決できました。Eさんは居住権を得ることができ、自宅の所有権そのものは息子が相続することで合意。

 現預金についてはEさんが3分の2、息子が3分の1を相続することになって、当面の生活資金も確保することができました」

 配偶者居住権とは、残された配偶者が住む家を保護するための仕組みだ。令和2年4月1日以降の相続から新たに認められた権利で、亡くなった人の所有していた建物に、残された妻(夫)が無償で住むことができるというもの。

 例えば、6000万円の自宅に住む権利の2000万円と家を売却する権利(所有権)4000万円に分けて相続することで、家を相続しなくても、住む権利を活用できるのだ。

 夫が亡くなったとしても、夫婦で過ごした家にそのまま住み続けたいと考える人も多いはず。前もって夫婦の財産を洗い出し、相続のシミュレーションをしておけば安心だろう。

配偶者居住権のしくみ
 相続では居住不動産の評価額が大部分になるケースも多い。そこで従来は公平な遺産分割のために自宅を売却せざるを得ないことが多かった。
 そこで住む場所を追われる配偶者に考慮して「配偶者居住権」が制定。住宅の「居住権」と「所有権」を分けた相続が可能になり、遺産の分割方法の自由度が格段に増した。

配偶者居住権のしくみをわかりやすく図解
配偶者居住権のしくみをわかりやすく図解
島根猛さん●島根税理士事務所代表。「実家の相続を円満に」という思いから税理士を志し、今や年間100件以上の相続案件に携わる。著書に『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
島根猛さん●島根税理士事務所代表。「実家の相続を円満に」という思いから税理士を志し、今や年間100件以上の相続案件に携わる。著書に『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
教えてくれたのは……島根 猛さん●島根税理士事務所代表。「実家の相続を円満に」という思いから税理士を志し、今や年間100件以上の相続案件に携わる。著書に『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

(取材・文/オフィス三銃士)