嗅覚障害が起きたら認知症の疑いが
香りが認知症の予防や改善に効果を発揮するとは意外だが、実は嗅覚と認知機能には密接な関係性があるという。
「私たちの研究では、MCIや早期認知症患者の多くが、もの忘れなどの症状が現れる以前に嗅覚障害を発症することがわかっています。
個人差がありますが、具体的には食べ物が腐敗した臭いや、汗のしみ込んだ洗濯物の臭いなど悪臭を感知しにくくなる方が多いようです。
例えば高齢の親御さんが、腐敗した食べ物を放置したままにして、臭いを何も感じていないようでしたら、それは嗅覚障害のサインかもしれません」
嗅覚障害を利用して早期に認知症を発見すべく、浦上先生はスクリーニング検査の実験も行っている。
「6種類ほどの香りを嗅ぐだけで、高精度に嗅覚機能の異常を発見することができます。5分でできて簡単なうえ、特異度も高い検査法です」
嗅覚機能検査は、新薬のレカネマブの有効な活用に役立つ可能性も秘めている。
「嗅覚障害は、もの忘れなどの症状が出る前の早い段階で現れます。嗅覚障害の検査で異常が見られた場合、次のステップとして、早期にアミロイドPETや腰椎穿刺検査を行えば、もっと多くの人にレカネマブを届けることができるかもしれません」
レカネマブの新たな承認で、国内でアルツハイマー型認知症に使用できる治療薬は全5種類となった。世界中で今もさまざまな治療薬の開発が進んでいるが、認知症が“恐れる必要のない疾患”となる日はまだ遠そうだ。
夢の新薬が真に登場する日を待ちつつ、個人でできる予防策を徹底したい。
浦上克哉●鳥取大学医学部教授。日本認知症予防学会代表理事。認知症予防・診断の第一人者。著書に『これでわかる認知症診療』(南江堂)など
(取材・文/植木淳子)