逃避が目的の出家では長続きしない
「問い合わせで、特に40代後半とか50代の方に多いのですが、今の生活が苦しいから、仏教の世界に逃げることを目的にした方もいらっしゃいます。“出家すれば自由になれる”“僧侶になれば暮らしていける”と誤解されているのかなと。
出家するための研修会には実費負担で参加していただいていますし、衣を購入したり、いろいろな経済的な負担はご自身にお願いしています。
留守番をお願いしているお寺から、何か手当が出るということもありませんし、経済的な部分はフォローできません。このような見返りを求めて出家されても、長続きはしないと思います」
今の社会からの逃避が目的の人は、仏門に入ってもそこで違う矛盾を感じるだけ、と久司さんは次のように続ける。
「出家という言葉のイメージが、すべてから解き放たれるということなのかもしれませんが、決して楽な生活になるわけではありません。私たちは、あなたの心を自由にするお手伝いをするだけです、と問い合わせいただいた方に伝えています」
前出の横山さんに、これから老後出家を考えている人にアドバイスをお願いすると──。
「難しいですね……。逆に“あなたは残りの人生をどうするつもりなの?”と聞きたいですね。何もすることがないからお坊さんにでもなろうか、ではダメだと思います。
第2の人生で出家という道を選ぶなら、自分の残りの人生をかけるくらいの本気で、仏教に向き合うということかな」
定年後の軽い手習いということではなく、これまでの人生を見直しつつ、新たな人生を模索する。楽に生きよう、と思っている人に老後出家は難しい選択なのかもしれない。
(取材・文/蒔田 稔)