担当とバトルの日々。意外な作家仲間とは?

冬に出る新刊の舞台・新橋に溶け込む赤松(撮影/佐藤靖彦)
冬に出る新刊の舞台・新橋に溶け込む赤松(撮影/佐藤靖彦)
【写真】お酒はなんでも飲むという作家・赤松利市、特に好きなのはレモンサワーだそう

 2017年11月25日、第1回大藪春彦新人賞受賞者発表。赤松利市の『藻屑蟹』は、選考会満場一致で受賞が決定した。受賞の言葉として、赤松は次のように語った。

「たとえ将来、路上に帰らざるをえないほど困窮しても、日銭仕事に執筆の時間を犠牲にするぐらいなら私は何の躊躇もなく路上に帰ります。その覚悟を受賞の言葉としたい」

 デビュー以来の担当編集者である徳間書店T氏は作家・赤松利市についてこう語る。

「担当編集としてやりやすいかどうかといえば、やりにくい。お互いの共通言語が小説なので、日常会話がぎこちなくなる。一緒にいるときはお互いムッとしています(笑)。赤松さんは大藪新人賞第1回の社内選考のときに、もうこの人しかいないって言われるぐらい完成してた。でも僕はガンガン修正を入れる。僕は誰より赤松利市を知っています。今回の『救い難き人』も改稿を頼みすぎて、赤松さんは途中で僕のことを嫌いになりかけてましたね」

 赤松が時々一緒に飲みに行く、意外な作家仲間がいる。ベストセラー作家の新川帆立だ。『元彼の遺言状』で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、『競争の番人』などテレビドラマ原作のヒットメーカーでもある彼女から見た赤松とは。

「自分より年上の男性って、マウント取ってきたりとか、自分を大きく見せようする人も多いんですけど、赤松さんは全然そういうのがない。余裕があって聞き上手なんです。聞いてるのかわからないけど、実は聞いているという(笑)。でも、赤松さんが30代だったら、ギラギラ脂ぎっていて嫌だったかな。年齢的にも作家としても、ずっと先輩なんですが、なぜか友達関係だと自分では思ってます」

 路上生活から62歳で作家デビュー。16作目の『救い難き人』(徳間書店)を上梓した現在、赤松は何を思うのか。

「業だか何かはわかりませんが、ただ書き続けたい。ほんまの晩年は、海辺の片隅に住んで、そこで小説書きながら、晴れた日は釣りに行く。帰ってきたら、家の縁側の七輪で干し魚を炙りながら、晩酌しつつ、沈む夕日に乾杯。独り身がいいですね。配偶者は怖いですよ。離婚って結婚の10倍しんどいですから」

 そう言ってから付け足した。

「でもな、時々ネットバンキングで宝くじは買うてます。2億当たったら、そらね」

 赤松はギラついた笑顔を見せた。これからも金と欲にまみれた人間を書き続けるのは間違いない。

<取材・文/ガンガーラ田津美>

がんがーら・たつみ 東京都生まれ。高校中退後、各種職業を経て、官能雑誌ライターとしてデビュー。その後広いジャンルで執筆。『外食流民はクレームを叫ぶ/大手外食産業お客様相談室実録』で、第24回「週刊金曜日ルポルタージュ大賞」佳作入選。