明るい壁紙の部屋が生きるパワーをくれた
母親のため、前向きに団地へ引っ越しを決めたものの、やはり新築マンションからの落差は想像以上。そのショックは大きかったと、きんのさんは当時を振り返る。
「実際に部屋を訪れると、壁紙は剥がれて床も天井もボロボロでカビだらけ。涙が出そうでした」
それでも、落ち込んでばかりではいられない。団地で母親の介護をしていくと決めたのだから、せめて“心が元気になるような部屋にしよう”とリノベーションを始めた。
「例えば、キッチンは黄色、トイレは青色など、壁紙には明るい色を選びました。毎日過ごす部屋だからこそ、色からパワーをもらえるんじゃないかと思ったのです」
もともと3DKだった間取りは、使いやすさを重視した1LDKに変更し、部屋全体に日の光が入る明るい空間にした。
一方で、ネット通販で購入したシートを寝室の床に張るなど、できるところは自分で作業。「お金が本当になかったから」と話すきんのさんだが、そのDIYの過程が思いがけず楽しいものとなり、部屋への愛着を育んだ。
「オシャレなカフェのような空間にしたくて、100円ショップで買ったイミテーションの植物も飾りました。それが1つ、2つ増えて、次はベランダで季節の花を育てて。
そうやって部屋に好きなものを少しずつ増やしていくと、気持ちが軽くなっていくのがわかりました。
そうしているうちに、趣味で近所の陶芸教室に通える余裕もできて。知り合いが増え、ここでの暮らしがより楽しいと思えるようになりました。5年前には、こんな未来があるとは想像できませんでした」
“毎日過ごす空間が、自分のマインドを変えてくれる”ということに、身をもって気づいたときんのさん。
生活を第一に、やりがいのあった都内での仕事も通勤時間がもったいないと思い辞めた。そして自宅から近い、介護の仕事へ転職をして“自分時間”を確保した。