女性は胸痛以外の痛みや吐き気が多い

 ではなぜ女性は治療開始が遅れてしまうのだろうか。原因としてまず考えられるのが女性特有の症状だという。

心筋梗塞を起こすと男性は主に胸の痛みなど心筋梗塞の典型的な症状を訴える人が多い。でも女性の場合は、胸に限らず、背中、あご、のどに痛みが出たり、食欲不振や吐き気などの消化器症状が現れたりします。

 そのため、本人もまわりも、一刻を争う心臓の病気だとは考えず、救急車を呼ばすに様子をみてしまう。また、消化器科など心臓病を専門としていない診療科にかかってしまう例も少なくありません」

 さらに、このような女性の多岐にわたる症状は、入院したあとの治療の遅れにも影響する。安田先生自身も治療現場で、女性ならではの難しい局面を数多く経験してきた。

 ある80代の女性患者は、食後に嘔吐(おうと)し、強い胃痛もあったため救急車を呼ぶが、その症状から消化器科へ搬送された。

 胃カメラでは異常はなかったが、追って出された血液検査の結果で心臓の異常が疑われることに。そこで心電図をとって初めて心筋梗塞とわかり、ようやく循環器科に移されてきたという。

「なぜ女性に胸以外の痛みや胃腸症状が多いのか、原因はいまだ不明です。でも多くの症例から女性特有の症状が死亡率に影響している現状が浮かび上がってきたのです」

吐き気、嘔吐 イラスト/青井亜衣
吐き気、嘔吐 イラスト/青井亜衣