北米で理想的なスタートを切ったところで次に気になるのは、アワードレースでどこまで健闘するかだ。先にも述べたように、GKIDSはアカデミー賞レースを意識し、投票者の記憶に残りやすいこの時期を選んで公開している。
投票者向けの試写も9月ごろから何度も組み、決して派手ではないが、着実にキャンペーンを展開してきた。アカデミー賞のノミネーション発表は1月13日、授賞式は3月10日とまだ先だが、今のところ、この映画は、ニューヨーク批評家サークルとロサンゼルス映画批評家協会、ボストン映画批評家協会から最優秀アニメーション映画賞を受賞。ナショナル・ボード・オブ・レビューの「2023年のトップ10映画」のひとつにも選ばれている。
しかし、同じナショナル・ボード・オブ・レビューが選ぶ最優秀長編アニメーション映画賞は、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』に奪われた。各批評家賞とアカデミー賞では投票者がまるで被らないので、それだけを基に完全な予測はできないものの、傾向の参考にはなる。
アカデミー賞長編アニメ賞のライバルは?
今後発表されていく数々のアワードでも、おそらく最も強豪のライバルは、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』だろう。2018年に公開された同シリーズの前作『スパイダーマン:スパイダーバース』も、ディズニー、ピクサーを制してアカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞した。斬新でユニークなビジュアルを持つこの2作目も、RottenTomatoes.comで95%の批評家、94%の観客から評価されている。ただ、3部作の真ん中で、話が次に続く形で終わることは、若干ハンディキャップになるかもしれない。
ほかに健闘しそうなのは、この部門の常連であるディズニーの『ウイッシュ』、ピクサーの『マイ・エレメント』に加え、セス・ローゲンが手がけ、声のキャストに初めてティーンエイジャーたちを起用して新鮮さを吹き込んだパラマウントの『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』、新海誠監督の『すずめの戸締まり』など。
アメリカの批評家受けはあまり良くなかったが爆発的にヒットしたイルミネーションの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、北米公開が今月22日で、投票者に向けた試写を回すのが出遅れた感のある、やはりイルミネーションの『FLY!/フライ!』、ドリームワークス・アニメーションの『Trolls Band Together』も、候補入りを狙う。また、毎回積極的なアワードキャンペーンを展開するNetflixには、『チキンラン:ナゲット大作戦』『ニモーナ』がある。
評判が良くても必ずしも受賞につながると限らないのが、賞の難しいところ。全世界から尊敬される巨匠が、最後にまた大きな賞を手にすることになるのか、注目だ。
猿渡 由紀(さるわたり ゆき)Yuki Saruwatari
L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。