自死を踏みとどまらせた言葉

大阪・専念寺住職、籔本正啓さん(撮影/矢島泰輔)
大阪・専念寺住職、籔本正啓さん(撮影/矢島泰輔)
【写真】妻の綾香さんと付き合い始めた頃のツーショット

 籔本さんの発信する言葉が、1人の命を救ったことがある。

「息子が2歳になったとき《アナタが生まれた時、沢山の人を笑顔にして幸せにしたんです。だから「私なんて」って思わないで》という言葉をプレゼントしました。不妊治療を経験していたから、彼が生まれたときには、みんながとてつもなく幸せを感じたんです。息子には、そのことをぜひ知っておいてほしい。そんな思いも込めて贈り、また自分の記録として言葉をSNSに投稿しました。

 すると、私をもともとフォローしてくれていた1人の女の子が、投稿を拡散してくれました。SNSで、仲の良い人がアクションをしたら通知が来るよう設定している人もいますよね。その女の子のアクションに対して通知をオンにしていた別の女の子が、私の言葉を目にしてくれたんです

 ここで思いもよらない結果を呼ぶ。

「私の投稿と出合ったその子は、入ったばかりの高校になじめず、精神的にすごく不安定になっていた。そんな悩みから生きるのがつらくなり、思い詰めた彼女は1人で山に向かったそうです。そこで、偶然にも電波が入るところで、私の投稿を目にした。そして言葉を見たときに、ハッとわれに返り、状況を自覚して自分の行動が怖くなり、ギリギリのところでお母さんに電話をかけたと聞いています」

 女子高生の母は慌てて父とともに車で娘を迎えにいった。

「その帰路で、お母さんがSNSに掲載していた私の連絡先に電話をかけてきてくださいました。“あなたのおかげで、娘が踏みとどまったんです。ありがとうございます”と。まさかそんな形で人を救うとは思ってもいなかったので、驚きました。言葉が持つ力の強さと、それを拡散してくれたSNS本来の魅力を感じました。その後、このお話を紹介してもいいかどうか、お母さんとお話しさせていただいたところ“同じような人が踏みとどまってくれるのであれば、拡散していただいて構いません”と、娘さんご本人からもご快諾いただきました。

 生きることを諦めかけていた女の子も、自身の経験が誰かを助けたとなれば少し自信もつくだろうし、その経験をバネにして、友達が同じような気持ちで悩んでいるときに寄り添うこともできると思います。SNSは、そうやって人の思いがどんどんつながっていく場所なんです」

 普段は活動に興味がないという綾香さんも、この話には驚いたという。

「聞いたときは鳥肌が立ちました。そういう切羽詰まった人に届くような状態になっているのに、驚きました。すごい活動をしてるのかもなって、ちょっと見直しました」

 SNSを通じて専念寺が有名になっていることに関して、前出の檀家総代の淺井さんは、

「私はインターネットに詳しくないので、最初に話を聞いたときはびっくりしました。新聞の記事になっているのを見て知ったのですが、うれしかったし、どこか誇らしい部分もありました。彼の言葉で救われている人がたくさんいるというのは、素晴らしいことですね。おみくじが欲しくてほかの地域から来た人なんかを見かけると、有名になっているのを実感しますよ」

 と、目を細める。