認知症は出費のほか、介護者の収入減も
「親の認知症が進行して、介護費用がかかるようになったので、本人の預貯金でまかなおうとしたのですが、『本人の意思確認がとれないから』と銀行に口座を凍結されてしまったのです。介護費用を引き出すには法定後見の手続きが必要と言われてしまって……」
と困り顔のA美さん。
認知症を巡っては、さまざまなお金に関する困り事が発生する。
「まず、医療費や介護費がかかります。慶應大学医学部と厚労省の共同研究をもとに計算すると、認知症にかかるひと月の医療費の平均は、1割負担の場合だと外来で約0.4万円。入院した場合は3.4万円になります。
介護費は、在宅だと1割負担の場合、月約1.8万円。施設介護は、月30万円かかることも珍しくありません」
と黒田さん。問題なのは出費がこれだけではないこと。
「認知症は、本人が動き回れる状態のときは、要介護度が低く認定されます。見守りの負担が大きいのに、要介護度が低いために公的介護保険の上限額が少ないのです。
その上限額を超えて介護サービスを利用した分は全額自己負担。そのお金がない場合は、家族が仕事を休んで介護をすることに……」
その結果、家族の収入が大幅ダウンしてしまうケースがあるのだ。そして、介護費用を本人の口座から引き出そうとすると、先述の口座凍結問題が発生するというわけ。口座凍結対策としては親の認知症が進行する前の準備が重要だ。
「比較的簡単なのは、親の判断力がしっかりしているうちに、親の口座からお金が引き出せる人を決めておく“代理人指名手続き”や“代理人カード”の発行をすませておくことです。
あるいは、あらかじめ介護用にまとまったお金を子どもの口座に移して預り金とし、その内容を親に一筆書いてもらっておいてもいいですね。
そうすれば贈与とはみなされません。民間保険についても、指定代理請求特約や家族登録の手続きをすませておきましょう」
認知症にかかるお金
(1)医療費
検査や治療などにかかるお金
(2)公的介護保険の対象となるお金
在宅介護や施設介護にかかるお金(上限があるので要注意!)
(3)その他
・(2)の上限額を超えた分の介護費
・送迎のタクシー代
・認知症高齢者見守りサービスの費用
・家族の収入減
・成年後見人に払う報酬…など