作曲を岡千秋、作詞を石原信一が務める

 青天の霹靂は続く。

 数日後、デビューシングルの作曲を岡千秋が、作詞を石原信一が務めると告げられる。「私の歌をこんなにすごい先生方が!? しばらく、夢なんじゃないかと思った」。事業論を語る金嶋グループ会長の目とは打って変わって、少年のように目をきらきらと輝かせる。

 大人の恋を歌ったデビューシングル『新宿しぐれ』の作曲を務めた、岡さんが振り返る。

「決して口にはしませんが、苦労をされてきたんだろうという境遇を金嶋さんから感じました。曲を考える際、あれこれいろいろと考えるものなのですが、金嶋さんは人間味にあふれているから、メロディーがすっと降りてきた。自分で言うのも何ですけど、こういうケースは珍しい(笑)」(岡さん)

 岡さんは、情景や雰囲気を人間味で伝えられるのは、天性のものだと指摘する。そして、こう続ける。

「そういう意味では、歌手として必要なものをお持ちになられていた方だったということでしょう。性格そのものが声に出てらっしゃる。魅力があるのだから、このまま真っすぐ歩き続けてほしい」(岡さん)

社会に恩を返す“恩送り”の人生を歩み続けたい

「自分にできることを探し続け、これからも世間に“恩送り”をしたい」と語る
「自分にできることを探し続け、これからも世間に“恩送り”をしたい」と語る

 歌手になれるなんて夢にも思わなかった。その代わり、70歳を過ぎてから、恩を返す人生を歩みたいと願った。

「改めて自分の人生と向き合ったとき、残りの時間を社会のために還元しようと思いました。弱い人でも、幸せになる権利はある。命は、どれをとっても大切な命のはずです。環境によって、その後の人生が決まってしまわないよう、私は寄付という形で“恩送り”をしようって」

 欧米では、財を成した者が寄付をする、あるいは財団や基金を設立するといったことが珍しくない。しかし、ここ日本では理解に乏しく、寄付文化が十分に根付いているとは言い難い。

「それを変えたい」

 新型コロナウイルス対策では、医療機関を支援した。新宿にある児童養護施設『あけの星学園』で暮らす新成人のお祝いのために、1000万円を投じて『金嶋昭夫基金』を設立した。 

「自分が50年以上にわたってお世話になった新宿から恩返しをしようと。『あけの星学園』で育った子どもが新成人になったときに5万円を受け取れる……毎年20人ほどが成人を迎えて卒園するというので、10年間は支援が続けられるように設立しました」

 また、日本だけではなく、両親がルーツを持つ韓国に対しても寄付活動を行う。一人ひとりには返せないからこそ、自身が世話になった社会に恩送りを続ける。あのとき、畑の中で拾った数千円が、こんな形でめぐりめぐるとは、神様ですら想像していなかったかもしれない。

 筆者が「出世払いにしては、太っ腹すぎます」と笑って感嘆すると、「人間は幸せになるために生まれてきてるわけだから、幸せにならないと!」。こちらの笑顔がかすむくらい、まぶしい笑顔で返す。

 前出の田村さんが断言する。

「あの笑顔に、みんなやられるんですよ(笑)。金嶋さんが寄付活動をしていると知ったのは出会った後だったけど、会った瞬間に惹きつけられるものを感じた。金嶋さんのそうした生き方が、表情からにじみ出ているからだと思う。たくさんの歌手を見てきたけど、こんな歌手はいません」

 新宿にビル17棟を有する篤志家の新人歌手─、たしかに規格外すぎて聞いたことがない。そういえば、『金嶋昭夫Winter Show』にゲストとして出演した「夢グループ」石田重廣社長は、笑いながらこう話していた。

「金嶋会長の顔は、人から嫌われない顔。目を見ていただいたらわかると思うんですけど、とても純粋な目をしているんですね。うらやましいなぁって思います」

 金嶋さんを囲むとき、どういうわけかみんなが笑顔になる。社会に優しい人の近くへ行くと、こちらの心まで柔らかくなってしまう。