子ども食堂を通じて、子どもの過酷な状況を知る
しかし運営を続けるうちに、想像以上に過酷な子どもたちの現実を目の当たりにする。虐待やネグレクトを受けている子ども、リストカットをしている子ども、妊娠に気づかない子どももいた。
「うちはクローズド型で、週に1回、シングルマザー、不登校の子ども、児童相談所から紹介されたケースのみ食事を提供しています。料金は大人が300円、子どもは100円です。生きづらさを抱える子どもは発達障がいがあるケースも多いのですが、それに周囲が気づかず、子どもは将来に希望を持てず、罪を犯してしまうこともあるのです」(南谷さん)
親に発達障がいがあり、仕事が長続きしない、無計画に妊娠してしまうといったことから、貧困に陥ってしまうケースも少なくない。
「親が経済的に安定して、子ども食堂を卒業していただくことが願いですが、私がスタートしてから6年間ずっと生活保護を受けながら来られている親子もいます。親に生きる力を身につけていただかないと、貧困から一生抜け出せなくなります」(南谷さん)
今は運営上の問題も山積みで、「この先続けていけるかはわからない」と南谷さんは不安をもらす。
「食材費や光熱費は、荒川区や団体からの助成金や寄付で賄っています。多いときには1日50食を作っており、寄付でいただいた食材を皆さんに渡すオペレーションも必要です。圧倒的に労力が足りていないのですが、毎回、手伝ってくださる方を探すのも大変。さらに助成金には透明性が求められるので収支報告の業務も発生し、休む暇がありません」(南谷さん)
親から身の上について相談されたり、依存されたりすることもあるが、南谷さんはカウンセラーではない。子ども食堂はただ食事を提供すればいいわけではなく、心身共に負担の大きい業務のため、「もうやめよう」と思ったことが何度もあるという。
「子ども食堂に期待が寄せられていますが、はたして食事を提供するだけで子どもの人生が変わるのか疑問に思うこともあります。具体的な目標や成果もないので、スタッフがモチベーションを保つのも大変です。子どもたちの教育だけでなく、親の再教育の必要を感じることも多々あり、行政や専門家につなぐことも行わなければなりません」(南谷さん)
それでもなんとか続けてきた原動力は子どもたちからの「おいしい!」という声にほかならない。
「みんな残さず食べてくれて、『今日のおかずは何?』と楽しみにしてくれています。例えばニンジンは、子どもが嫌う野菜として知られていますけれども、おいしい味つけは子どももわかる。“ニンジンしりしり(千切りニンジンを炒めて卵でとじた料理)”なんて、大人気のおかずのひとつです。
子どもを見守っていくことは自分の使命だと思っていますが、年齢的にもいつまでできるかはわかりません。この先、引き継いでくれる次の世代の人も探しているところです」(南谷さん)