テレビドラマでありながらテレビ依存せずにヒット

 ハレンチな側面ばかりが取り上げられがちの『離婚しない男』だが、エンタメ業界の進化の最先端をいく“新時代のドラマ”だという気がしてならないのだ。

 本作は世帯視聴率3%台でスタートしており、23時台のドラマとしては悪くはないだろうが、視聴率だけで見るとヒットとは言えないだろう。だが前述したように、TVerなどの見逃し配信で歴代最高記録を樹立してヒット作となっている。

 これはつまり、テレビドラマでありながら、テレビに依存せずともヒット作が生み出せるという証明になっているのである。

 以前から不倫ドラマには同じような傾向が見られ、昨年4月期放送の『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)も、視聴率はいまいちながら、見逃し配信でブレイクした作品だった。

『あなたがしてくれなくても』は全話平均の世帯視聴率が5%台と低調だったものの、TVerの昨年4月~6月の番組再生数ランキングで、累計5481万再生を叩き出し堂々トップに。3589万再生で2位の『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)、3056万再生で3位の『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)に大差をつけて、ブッちぎりの1位だったのだ。

 濡れ場のある不倫ドラマは、家族団らんで観る作品としては適していないのはもちろんだが、観ていることをほかの家族に知られるのも恥ずかしいジャンルであるため、テレビ視聴にはあまり向いていない。

 特に近年、TVerやサブスクの動画配信サービスはスマホやPCで簡単に観られるので、わざわざリアルタイムの放送をテレビで視聴する必要性も薄れている。

 こういった時代背景があり、不倫ドラマは視聴率が低調で、その代わり見逃し配信の再生数が伸びる傾向にあるのだが、『離婚しない男』は意図的にその路線をとことん突き詰めているだろう。

 本作について鈴木おさむ氏は、「正直、色んな意味で話題作になり、問題作となると思います」とコメントしていた。あえてアダルト作品顔負けの卑猥な描写やセリフを次々と投下することで、“こっそり視聴”勢にネット上で話題にしてもらって、ブームを巻き起こそうという計算があるのかもしれない

 鈴木氏はテレビ愛が強い人物と見受けられるので、テレビ業界を盛り上げたいという気持ちが土台としてはあるだろうが、テレビでリアルタイム視聴するというスタイルだけでなく、自分一人で好きな時間にスマホやPCで観るスタイルも想定しているはず。

 ――このように『離婚しない男』はただエッチで過激なだけではない。

 地上波テレビのコンテンツでありながら、テレビ視聴だけを前提にしているわけでなく、テレビ依存から脱却できる可能性を示した、先鋭的にアップデートされた新時代のドラマなのである。

堺屋大地●コラムニスト、ライター、カウンセラー。 現在は『文春オンライン』、『CREA WEB』(文藝春秋)、『smartFLASH』(光文社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『日刊SPA!』などにコラムを寄稿。これまで『女子SPA!』(扶桑社)、『スゴ得』(docomo)、『IN LIFE』(楽天)などで恋愛コラムを連載。LINE公式サービス『トークCARE』では、恋愛カウンセラーとして年間1000件以上の相談を受けている(2018年6月度/カウンセラー1位)。公式Twitter:https://twitter.com/sakaiyadaichi