目次
Page 1
ー 二次加害など傷つけられる対象になる構図がまだある
Page 2
ー 当事者視点で語らないと意味がないと思った
Page 3
ー どんな心の傷があっても、生き延びていかなければいけない

 

 '22年に週刊誌で映画監督による性加害報道がされたのを皮切りに、旧ジャニーズや人気芸人など性加害報道が止まらない。先日、日本での性加害告発の発端となった映画監督の榊英雄が逮捕・起訴され、松本人志の裁判が始まり世間の注目を集めている。

二次加害など傷つけられる対象になる構図がまだある

 旧ジャニーズ事務所のスタッフ2人も加害者だったことが明らかになるなど、報道は加熱する一方で、連帯を意味する#MeTooが広まっているかというと疑問だ。

「膿は出てきたけど、日本の映画界や芸能界はしがらみがありますよね。芸能人は政治発言をしちゃいけないとか。小泉今日子さんのような方はいますが、稀有な存在。芸能界というのが特殊な世界だと思われてきたから、今までないことにされてきた部分があったと思います。

 でも蓋を開けてみて、やっぱりこれは間違っていると気づき始めた。性加害が犯罪になりうるという意識が広まり始めているというか。この波を止めてはいけないなと思います」

 そう語るのは、俳優で映画監督の松林麗だ。前作より#MeTooをテーマにした作品を監督し、最新作『ブルーイマジン』(現在公開中)では性加害問題を題材に選んだ。18歳でモデルとしてスカウトされ芸能界デビュー。

 『飢えたライオン』('17年)では主演を務め、教師による淫行の相手だというデマがSNSによって広まっていくのに耐えられず、自死を選ぶ女子高生を演じ注目された。

SNSで告発しやすくなったのは良い部分もある一方で、被害当事者の人たちが救済される場所がない。二次加害もそうだけど、傷つけられる対象になってしまうっていう構図がやっぱりまだまだあります。傷つけるっていうことにはすごく一種中毒性みたいなものがあるから……
  
 SNSの危険性と現状をこう語る。懸念を示すのは二次加害をしてくる人たちにとどまらない。

支援者のなかにも正義感が生まれてくることがあって、大事だと思う一方で、被害当事者が置いてけぼりになってしまうことの危険性も私はずっと感じています

 松林自身も、性暴力被害について公表したひとりだ。インタビューに答える一言一言に切実さが滲む。公表すると必ずと言っていいほど「警察に行け」「ギブアンドテイク」「なんで今更……」などの文言がついて回る。

『ブルーイマジン』 (C)BlueImagineFilmPartners
『ブルーイマジン』 (C)BlueImagineFilmPartners

 それがどれだけ被害当事者を苦しめるか。そもそも、性被害だと認識するまで平均して7年以上かかるとも言われている。なかには「性被害を映画の宣伝に使うな」という心ないコメントも投げかけられたというがーー。

ある程度は想定していました。ただ“被害者ビジネス”とか言われると、ふざけんなと思いますけどね。でもそういう時は逃げることも大事だと思っています。顔がない人たちに何を言われようと、自分自身を持つことが大切だと思っているので。そういう意味では切り離しも必要だと思います

 そう毅然と語る。