「身内が身内を調査」
割烹着姿やリケジョといった、わかりやすい記号があったがゆえに小保方さんは注目の的になった。だが、数ある研究不正の一例に過ぎないという。
「名古屋大学で研究不正により研究費停止の処分を受けている最中の研究者に対して、理化学研究所は研究室を与え、多額の予算を配分するといいます。理化学研究所は改組することで禊は済ませたと考えているのかもしれませんが、本質的なところは変わっていない。大学の研究機関を含め、研究不正防止の体制はいまだになってないといえます」(榎木さん、以下同)
問題が起これば、当事者だけに責任があると突き放す。
「論文では、『この治療法が効くかもしれない』と記述しているのに、プレスリリースでは『効果があります』と誇張するといったことも珍しくありません。1を10、100として発表してしまう研究不正が多い」
北欧などでは、政府に研究機関をチェックする部門があるというが、「日本はそれがない。各研究機関に任せてしまうことで、身内が身内を調査することで隠してしまう」。
隠蔽体質に加え、仮に発覚してもトカゲの尻尾切り。榎木さんは、「不正のやったもん勝ちのような状況が続いています。こうした事実をもっとたくさんの人に知ってほしい」と警鐘を鳴らす。
小保方さんをはじめ一部の人間だけが追放されたこの騒動。実は、何も決着していないのかもしれない。
えのき・えいすけ 1971年、神奈川県生まれ。東京大学理学部生物学科卒業後、神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医に。近著に『病理医が明かす 死因のホント』(日経プレミアシリーズ)。
取材・文/我妻弘崇