木村花さんの自死を受け、中傷で亡くなった人の供養に、仕立てられた生地に筆で絵柄を描く手描き友禅を始めた
木村花さんの自死を受け、中傷で亡くなった人の供養に、仕立てられた生地に筆で絵柄を描く手描き友禅を始めた
【写真】断髪する前の高橋さんや今でも大事に保管されているウェーブが残る髪

 許すことで心に決着をつけた高橋さんだが、'20年にプロレスラーの木村花さんがSNSでの誹謗中傷を苦に自死したと知り、衝撃を受ける。

誹謗中傷を書く手を誰かが止めないと、書かれたほうは本当に死んでしまう。もう黙っていられないと、顔を出してネット媒体で被害体験を告白することを決めました」

「機嫌が悪い時はネットに書き込まない」

 さらに「被害者の駆け込み寺をつくりたい」と、'20年に群馬県伊勢崎市に「天台宗 照諦山 心月院 尋清寺」を新寺建立し、住職に就任。全国から相談が届いている。

「解決法として、警察に被害届を出し裁判で争う方法がありますが、あまりおすすめしていません。時間と労力、お金がかかる割に何も得るものがないのです。もう1つの方法は忘れること。誹謗中傷に支配されている自分の状態を俯瞰して、恨みを流せば楽になる。そうなれるように私がじっくり話を伺います」

 相手と争わず、まずは自分と向き合うことで一歩前へ進めることもあるという。

 また、高橋さんは学校などで講演し、加害者を生まないための啓発活動も行う。誹謗中傷は“心の闇”がスイッチになる。

イライラしたり機嫌が悪い時はネットに書き込まないでください。書いてしまったら、アップせずに一度離れて見直しましょう

 壮絶な経験をした高橋さんだが人の良心を信じている。

天台宗の教えに『一隅を照らす』という言葉があります。一人ひとりが自分のいる場所で輝き、周りを照らしていくことで世の中が明るくなっていく、というような意味です。人は本来、みんなやさしく、輝く力を持っている。大切な人を思うように、ネットでもやさしい気持ちを忘れないでほしいのです

取材・文/小新井知子

たかはし・びせい 1964年、群馬県生まれ。2017年にフリーアナウンサーから転身して正式な天台宗僧侶となり、2020年に住職に就任。自身の誹謗中傷の被害体験を語りながら、被害者支援の活動などを行う。