治療後にも支援が必要

 認知症患者の場合、がん治療もまた難度が上がる。

「他の病気とがんの治療で何が違うかというと、がんの場合、抗がん剤をはじめ治療のメリットとデメリットが拮抗している場合が多く、ご本人がしっかりとそこを理解して積極的に向き合っていただかないと難しい。

 ただ、かなり認知症が進行してしまっていて、ご本人の理解が厳しい状況も2割から3割弱ほどあります」

 入院、手術、薬の種類と、がん治療における選択肢は多岐にわたり、医師と相談しながら基本的に本人が決めていく。そして仮に手術を選択した場合、リハビリや退院後のケアも本人の自発的な意思や努力が必要だ。

 本人の判断が難しいときは、家族に選択を委ねることになるが、昨今は単身の高齢者も多く、病院側は苦慮するという。

可能な限りご本人から意思を聞き出したり、今までのご本人の生活や他の価値観から推測しながら、治療をどうするかを考えていきます。

 ただ、治療をする・しないの選択はそこで見えたとしても、治療が終わった後もやはり何かしら生活の支援がないとご本人も立ち行きません。訪問看護や介護保険など可能な限り体制を組んでいく必要があるでしょう

 認知症患者の場合、症状に合わせて個々の対応が求められ、医療スタッフの労力がかかりがち。ただでさえ多忙な医療現場にとって、がん認知症の治療と介護は負担が大きい。

 またそこに取り組もうにも、どちらの知識もあるスタッフが足りていないことで、症状が進行することも。

認知症の方で一番大事なのが、入院中に身体の機能が衰えたり、認知症が進行しないように予防をして、住んでいた家に確実に戻れるようにすること。ある意味、予防的なケアが重要になります。

 しかし、入院中に動かなくて足腰が弱ったり、せん妄を起こして認知症が進んでしまうなど、個々で進行も違えば、認知症に関する知識もまだ十分広まっておらず、医療者や家族も手探りという状況です。がん治療も同時進行となると、さらに慎重で適切な判断が必要となるのです」