以前より進むようになったケアの計画調整

 もう一つ、認知症患者で問題となるのが抗がん剤をはじめとした薬の管理。飲み忘れの危険もあり、ここでトラブルが起きるケースも多いという。実際にあった例を聞いた。

「膵がんを患った70代の高齢男性で、飲み薬の抗がん剤で治療をすると決めた方がいましたが、飲み始めた初日にご本人が薬を飲んだか忘れて2度飲んでしまった。それで息子さんがパニックになってしまって、その治療を中止することに。結局この方は積極的な治療をやめ、緩和ケアに移行しました」

 単身者や家族がサポートできない患者の場合、介護施設に頼ることになる。しかし中にはがん患者の受け入れを拒否する施設もあり、退院後に行き場をなくすこともある。

「抗がん剤を飲まなければいけないとなると、施設によっては対応できないと言われてしまう場合も。

 また、がんの症状が進んで緩和ケアで医療用麻薬を使っていたりすると、そういう薬の管理はうちでは対応できないと入所を断られる事例も少なからず出ています」

 ただ最近は、少しずつ光も見えてきたそう。

認知症に関する医療従事者の教育は進んでいます。一般の病院では、認知症ケアチームをつくって、認定を持った看護師さんを中心に、認知症の人に合わせてケアの計画を立て、調整をする、という方針と実施は以前よりも進むようにはなってきています。対策は前進しつつあると思います」

 ダブル罹患が問題視されて医療サポート体制も徐々に整う一方で、小川医師は家族が“仮の想定”をすることも必要だと話す。

「もし、がん認知症になり、自分で判断することが難しくなるような事態になったとき。例えば、抗がん剤はやりたい、手術はしたくないなど、具体的イメージをご家族など周囲に話したり、メモを書いておくなり、意思を残しておく習慣は大切だろうと思います」

小川朝生先生●国立研究開発法人国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長、先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野分野長。1999年大阪大学卒。国立病院機構大阪医療センターなどを経て現職。一般社団法人日本総合病院精神医学会一般病院連携精神医学特定指導医、一般社団法人日本認知症学会専門医・指導医。
小川朝生先生●国立研究開発法人国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長、先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野分野長。1999年大阪大学卒。国立病院機構大阪医療センターなどを経て現職。一般社団法人日本総合病院精神医学会一般病院連携精神医学特定指導医、一般社団法人日本認知症学会専門医・指導医。
【グラフ】「ダブル罹患」増加の認知症とがん、年齢別の有病・罹患率

お話を伺ったのは……小川朝生先生●国立研究開発法人国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長、先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野 分野長。1999年大阪大学卒。国立病院機構大阪医療センターなどを経て現職。一般社団法人日本総合病院精神医学会一般病院連携精神医学特定指導医、一般社団法人日本認知症学会専門医・指導医。


取材・文/小野寺悦子